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ビーバーのダムと生態系エンジニア【自然破壊に該当?獣害問題は存在する?】

ビーバーは川にダムを作る事で知られている動物です。川にダムがつくられると水の流れがせき止められて、小さな「ダム湖」ができます。そのように元々の自然環境を改変する生物の事を生物学では生態系エンジニア(英:ecosystem engineer)と呼ぶ事があります。生物学的には、ヒトも生態系エンジニアに含めます。

この記事ではビーバーの動物的特徴を踏まえたうえで、以下の点に特に注目します。

  • ビーバーはダムを作るというが、それはどのような規模の「ダム」なのか?
  • ビーバーがダムを作る事は、ヒトが作る大規模ダムのように自然破壊の要素を持つのか?
  • ダムの影響も含めて、ビーバーによるヒトに対する獣害問題は存在するのか?

★目次

ビーバーとはどのような生き物なのか

  1. 生息場所
  2. 動物学的な分類と特徴
  3. ビーバーの見た目の特徴
  4. ビーバーを飼育している日本の動物園
  5. 「ビーバー(beaver)」という名前の語源は?
  6. イギリスのビーバーについて

ビーバーの「ダム」

  1. そもそもダムとは何か
  2. ビーバーのダム作り
  3. ビーバーがダムを作る理由とビーバーの「巣」
  4. ビーバーのダムの「規模」
  5. ビーバーの「池」の深さ

ビーバーのダム建設による自然への影響は?

  1. 生態系エンジニアとしてのビーバーの評価
  2. ビーバーのダムと農村の「里山」の類似点

ビーバーによる獣害問題

  1. ヒトにとってビーバーは悪になり得るのか
  2. ビーバーがヒトを襲った事件
  3. 人の所有地などにビーバーがダムを作ってしまう場合

★当記事コンテンツのクレジットは以下の通りです。

  • 本文・イラスト・図・動画企画編集:当サイトオリジナル
  • 写真: pixabay.com 素材を利用規約に従って使用
  • 動画ナレーションボイス:小日向 南(こひなたみなみ)様に依頼
  • 参考文献:The Encyclopedia of Mammals (他に、出典・参考サイト等は記事内に随時記載)

ビーバーとはどのような生き物なのか

図鑑などを参考に描いたビーバーのイラスト図。背中がずんぐりとした胴体で耳は小さく、尻尾には毛が生えておらずウロコのような表面になっている。後ろの足の指と指の間には「水かき」として機能する膜がある。水泳が得意だが陸上での動きは苦手で遅い。半水棲である事も含めてラッコやカワウソ(イタチ科)に一見似るが、食肉目の動物ではなく、むしろネズミ・リス・ウサギの仲間である「げっ歯目」系統の動物。

生息場所

ビーバーは北アメリカやヨーロッパ~中央アジア北部に生息する動物です。特に北アメリカに住むものが有名かもしれませんが、ヨーロッパや中央アジアの北部にも生息しています。アメリカ大陸のビーバーとヨーロッパのビーバーは別種であると考える学者も一部いますが、どちらも「ダム」を作る習性があります。

ただしヨーロッパやアジアには北アメリカの種(いわゆるアメリカビーバー)が過去に持ち込まれており、元々のヨーロッパ系のビーバーの生息域は現在ではかなり限られています。【フランスやドイツの一部・スカンジナビア半島・ロシア中央部の一部などに今でもいると言われています。】

ビーバーの一部は中国の北西部でも見られるとも言われますが、基本的には東アジアには野生種は生息しておらず、日本にも野生のビーバーは住んでいません。(※アライグマのように動物園等から脱走して野生化し、数を増やすという可能性も今後全くあり得ないわけではありませんが・・・。)

北アメリカでのビーバーの分布は非常に広く、アラスカやカナダのかなり多くの地域から始まり、フロリダ北部やメキシコの北部近くまで広く分布していると言われます。従って、ビーバーは寒暖の気候に対してはかなり強い適応性を持っている事が示唆されます。

ヨーロッパ・アジアにはアメリカビーバーが持ち込まれています。また、現在のイギリスでの野生のビーバーは21世紀に入ってからヒトによって放たれたものです。

しかし「川にダムを作る」という習性からも伺えるように水辺を好む生き物であり、水辺が少ない砂漠や山岳地帯では基本的に見られないと考えられます。つまり、生息する分布が東西南北にかなり広いといっても基本的には森林や湿地帯などが主な生息場所だと考えられます。

【※北アメリカ大陸の西部に限定して住む「ヤマビーバー(mountain beaver)」という動物も存在しますが、これは一般的にはダムを作るビーバーとは別種とされています。習性的にも、ダムを作らず地下にトンネルを掘って暮らします。後述するようにダムを作るビーバーの体が割と大きいのに対して、マウンテンビーバーは体のサイズもかなり小型です。】

ビーバーは毛皮取得などの目的で特に20世紀に乱獲され数がかなり減ったと言われていますが、それでもなお多くの数と広い生息域が確認されており、全体としては絶滅危惧種に相当するような動物ではありません。

ただし地域によってはヒトによる狩猟が原因でビーバーが姿を消した場所も存在し(例えば英国)、ヨーロッパ/ユーラシア大陸由来の種のビーバーはアメリカ大陸由来の種と比較すると大きなダメージを受けています。

動物学的な分類と特徴

ビーバーはネズミやリスと同じ系統の哺乳類です。「げっし目【モク】」(齧歯目)に属します。(ウサギはまた別系統。)

ビーバーは淡水の池に巣を作り、水中での泳ぎが得意で、見た目の印象も何となくラッコやカワウソを連想するかもしれませんが、ラッコやカワウソは食肉目イタチ科の動物です。

  • ビーバー:げっし目ビーバー科の動物
  • ネズミ:げっし目の多数の科の動物
  • リス:げっし目リス科の動物
  • カワウソ:食肉目イタチ科の動物
  • ラッコ:食肉目イタチ科の動物

参考までに「ヤマビーバー」は、ビーバーと同じくげっし目の動物で「科」のレベルで「ヤマビーバー科」として区別されています。

食生活面から見ても、ラッコは貝や甲殻類、カワウソは魚などを食べますが、ビーバーは基本的には草食性で草や木の皮などを食べるのです。そのためビーバーは獲物を仕留めたり肉を食べたりするための「牙」を持ちませんが、木をかじって削れるほどの強力で鋭い「前歯」を持っています。

ビーバーが食べるものは植物ですが、季節によって多少の変化があるとも言われています。

  • 春~夏:草、藻【も】、シダ、木の葉をよく食べるとされる
  • 秋以降:木の皮などが加わる(冬季では冷水にそれを保存しておく事も)

この後での説明にもあるように、ビーバーはげっし歯目の動物の中で見ると大型の動物です。尚、げっし歯目で一番大きい動物はカピバラです。そしてビーバーは、げっし歯目の中で二番目に大きい動物になります。

上記でも触れましたように、ビーバーは主に近代以後のヒトによる自然破壊的な大規模狩猟で数を減らしながらも全体としては絶滅危惧種になる事なく、粘り強く現在でも数や生息域を維持しています。その事はビーバーが「ネズミ」と同系統の動物である事を考えると何となく納得が行きやすいのかもしれません。

ただしビーバーは繁殖能力が特別に高い動物ではなく、一年の中の限られた時期に限られた数の子供を産みます。アメリカのビーバーはおおよそ1~8匹/年、ヨーロッパ由来のビーバーは1~5匹/年と言われます。

また、野生のビーバーの寿命は大体10~15年と言われています。

アメリカのビーバーとヨーロッパ/ユーラシアのビーバーは、議論はあるものの、一般的には同一の「ビーバー科」に属すると考えられています。

  • アメリカビーバー(North American beaver):ビーバー科・学名Castor canadensis
  • ヨーロッパビーバー(European beaver):ビーバー科・学名 Castor fiber
  • 【参考】ヤマビーバー(Mountain beaver):ヤマビーバー科・学名 Aplodontia rufa

ビーバーの見た目の特徴

大きさ

ビーバーは日本では基本的に撮影されたものや動物園・水族館でしか見る機会がない動物ですが、もし実際に野生のものに突然目の前で出会ったら「結構大きい」と感じる可能性は高いでしょう。

このビーバーが目の前に
いるとしたら、「大きさ」はどれくらい?

もちろん、ビーバーは熊や馬や鹿のように大きいわけではありません。しかし通常のネズミやリスと比べるとかなり大きい動物なのです。

動物が「四本足で立った時の足元から肩までの高さ」を、ここでは「体高」と呼ぶ事にします。ではビーバーの体高はどれくらいかと言うと、個体差はありますがおおよそ30~60cmの範囲です。

それって、他の動物で言えばどれくらいの大きさなのでしょう?その大きさは、身近な動物で言えばおおよそ柴犬などの「中型犬」程度であり、場合によってはシベリアンハスキーなどの「大型犬」近くにも達するものと言えます。

あるいは、ヒトで言うと身長160cmの人の足元から膝までの高さが大体40~45cmくらいかと思われるので、ビーバーの体高30~60cmというのは人によっては膝まで届く事もある高さという事になります。

また、体重は10~30kgが標準的であるとされます。この重さも、犬で言うと中型犬~大型犬の範囲であると言えます。

また、ビーバーの体長については、頭と胴体を含めた長さはおおよそ80~120cmです。尻尾のみの長さは25~50cmだと言われます。いずれも、通常のネズミやリスの大きさをはるかに超えています。

  • ビーバーの体高:30~60cm
  • ビーバーの体重:10~30kg
  • ビーバーの体長【頭と胴体】:80~120cm
  • ビーバーの尻尾のみの長さ:25~50cm(厚さは、平べったい)

そう考えると、ビーバーはネズミと同系統であるにしてはかなり大きい動物である事が分かります。大きさ的にはイヌに近いのです。

ただし犬と違うのは、ビーバーは陸上での動きは遅いという点です。なのでその大きさ・その体重でビーバーが犬のように陸上で速く走り回ったりする事は基本的にないと考えられます。(その点に関してもビーバーはネズミと異なっています。)ビーバーが得意なのは水泳なのです。

体高・体重・体長のいずれも、ビーバーでは雄雌の差はあまりないとされます。

参考までに、ビーバーとは別種の「ヤマビーバー」はビーバーと比べて小さな体で、一般的な小型犬よりも小さく「小動物」をイメージさせます。

動物体高(足元から肩まで)体重
ビーバー約30~60cm10~30kg
柴犬
(中型犬)
約40cm9~14kg
ウェルシュコーギー
(中型犬)
約30cm10~13kg
ミニチュアダックスフント
(小型犬)
約20~25cm5kg以下
シベリアンハスキー
(大型犬)
約50~60cm16~28kg
【雌雄差あり】
【参考】
ヤマ(山)ビーバー
約11~14cm2kg以下

【データは専門書・図鑑・一部のウェブサイトを参照。参照元によって数値のばらつきはあります。ただし大体の大きさでは一致しています。】

顔や体の特徴

ビーバーは耳が小さく、目に比較して鼻が少しだけ大きく、鼻の近くから髭が左右に伸びていて、それで「イタチ」の仲間に見た目は似ていると言えば似ていると言えるかもしれません。特に水面から顔を出して泳いでいる姿はラッコそっくりに見えるかもしれません。

しかしビーバーは草食性で、牙状の歯は持っていません。ただし少しばかり長い前歯は非常に鋭く強力です。獲物を狩るわけではありませんが、樹木の幹を削る事などに使われるのです。その事はビーバーのダム作りと大いに関わっています。

胴体は一般的には背中がずんぐり・むっくりしていて大きく、ほっそりしている感じではありません。茶色の毛で覆われていて、主に毛皮目的で過去にヒトによる乱獲が行われました。

そして、尻尾が実は特徴的です。頭部や体部分と違って毛が生えておらず、皮膚が「ウロコ」のような構造で覆われています。また、ビーバーの尻尾の形は平べったく、水中での動きに活用されていると言われています。

体の大きさに比較して前後の足は小さめですが、後ろ足の指と指の間には「水かき」状の膜があります。つまり両生類のカエルの後ろ足のような形状になっているという事です。アシカなどのようにほぼヒレ状になっているわけではありませんが、ビーバーの足、特に後ろ足は尻尾と同じく水中での水泳に活用されるのです。

他方でビーバーは陸上での動きは得意でなく、陸にあがった時の動きはかなり遅いと言われています。その事は陸上で俊敏に動き回るネズミとはかなり異なるイメージになりそうです。

ビーバーを飼育している日本の動物園

ビーバーは動物園で飼われている事もあります。行けば実際に姿形を見れる他、動物園ホームページで写真が掲載されている事もあります。

ただし「東京動物園協会」によれば、ビーバーは「都立動物園では飼育していません」との事です。上野動物園や多摩動物公園にはいない事が示唆されています。(ホームページで写真は見れます。)

他方で、関東で言えば宇都宮市・千葉市などの動物園ではアメリカビーバーを飼育しているようです。山梨県の甲府市の動物園でもアメリカビーバーが飼育されています。関西では和歌山県や神戸市の動物園、北海道では釧路の動物園にビーバーがいます。

他に、ビーバーは動物園ではなく水族館で飼育されているというパターンもあるようです。新潟市の水族館にはビーバーがいるとの事です。

「日本動物園水族館協会」のホームページでは、アメリカビーバーを飼育している動物園や水族館を検索できます。

【出典および参考:■東京動物園協会ホームページ www.tokyo-zoo.net ■日本動物園水族館協会ホームページ www.jaza.jp ★当記事のここでの項目の情報は2024年8月現在のものです。また、実際に目的の動物を見れるかどうかは各動物園や水族館にお問い合わせください。】

「ビーバー(beaver)」という名前の語源は?

日本語で言う「ビーバー」という呼び名は、英語の beaver からそのまま取ってきています。では英語で言う beaver とは何を元にしているのかというと、実は語源については通説は存在するけれどもあまり明確ではないようです。

ビーバーというと北アメリカ、特に合衆国やカナダに生息するイメージが強いかと思いますが、先述のようにビーバーはヨーロッパでも昔から生息してきた動物です。

そして beaver という言葉は、実は合衆国が成立する以前から英語として存在するものだと言われています。

「beaver」というそのままの形ではないですが、元々英国(イギリス、イングランド)では beaver の元になっているとされる語が10世紀頃から存在していたと言われています。そしてその時代にはイングランドにもビーバーが存在していたとされます。【のちに絶滅、後述のように21世紀になって復活。】

つまり beaver という語自体はヨーロッパで発生したものであり、アメリカ大陸の先住民の人々の呼び名による由来ではないわけです。【アメリカ大陸先住民の言語は多種多様で、ビーバーの事も大陸の各地域の言語によって様々な呼び名があります。】

beaver という語は beofor, befer などと古英語では書かれ、のちに bever と書かれるようになり現在の beaver になったと言われます。通説ではbrown【茶色】および bear【熊】 と起源を同じくする bher という語に由来するのではないかと考えられているようです。その起源となっている語は種々の使い方がある中で「茶色」の意味で使われる事もあったとされています。

この語源説はつまり、「ビーバーとは、毛の色からそのように呼ばれるようになったのではないか?」・・・と推測するものと言えます。ただし、厳密には「はっきりとは分かっていない」というのが実情かもしれません。見た目が茶色の動物というのは他にもたくさんいるからです。

日本語的に見るといかにも特徴的な意味がありそうな名前のようで、実際には名前の由来はあまり明確ではないというのは少し意外でしょうか。

尚、英語以外の現代のヨーロッパ言語だとビーバーの呼び名はフランス語・スペイン語(いずれもラテン語系の言語)では castor 、ドイツ語では Biber 、オランダ語では bever です。厳密には語源は不明確だとしても、「ビーバー」と呼び名はゲルマン系の古い語がルーツであると強く推測されます。【動物の「学名」はラテン語でつける習慣になっているので、ビーバーの場合はフランス語などでの呼び名 castor がそのまま学名に反映されています。】

【出典・参考:■The American Heritage College Dictionary ■ウェブサイト etymonline.com】

イギリスのビーバーについて

ヨーロッパの大陸だけでなくイングランド・ウェールズ・スコットランドが存在する大ブリテン島(グレートブリテン島)にもビーバーが昔は生息していたと言われます。しかしおそらく狩猟が原因で14世紀頃にはイングランド・ウェールズではビーバーは見られなくなり、16世紀頃には島全体で絶滅してしまったとされます。(つまり大ブリテン島に関してはビーバーの野生種が壊滅したのは「近代以前」です。)

ただし、21世紀になってから非公式で誰かが放ったとされるものが野生化したのを発端に、現在では大ブリテン島には野生のビーバーが数少ないながらも復活しているとされています。

それを問題視する人もいる一方で、英国政府としては保護して行く方針のようです。

尚、この英国で野生化が復活したビーバーはアメリカ大陸の種ではなく、ヨーロッパ由来の種のビーバーであるとされています。

【出典・参考:■nbcnews.com ウェブ記事:Hunted to extinction, England’s first wild beavers in 400 years allowed to stay ■ウェブサイト Rewilding Britain:www.rewildingbritain.org.uk/why-rewild/reintroductions-key-species/key-species/eurasian-beaver】

ビーバーの「ダム」

そもそもダムとは何か

ダムというと、水力発電所などを作るために川に形成される大規模なコンクリートの壁の事を指して「ダム湖」を作るというイメージが一般的でしょうか。

ビーバーが作るダムはコンクリートでは作られませんが、「川の水をせき止めて上流側に池や湖を作る」という意味ではヒトが作るダムと似たイメージになります。

この時に、ダムは壁の下流側の水を完全に枯らしてしまうわけではなく、下流側の河川も水の流れが継続します。ヒトが作るダムの場合は上流側のダム湖に「水を貯めておく」事が主な目的になります。水力発電所の場合は、その貯め込んだ水を流して、その流れと圧力を利用して発電機を稼働させます。

ビーバーの場合は、もちろん電力目的でダムを作るわけではありません。目的は別に存在します。

合衆国のアリゾナ州にある「フーバーダム」
人工ダムにもいくつかの種類があって、コンクリート壁の上流側を傾斜させるものとそうでないものがあります。

尚、紛らわしいようですが「Beaver Dam」という名称の町や、「Beaver Dam River」「Beaver Dam Lake」という川と湖が合衆国のウィスコンシン州に存在します。いずれも、ビーバーのダムにちなんで名付けられとされています。【出典:ウィキペディア Beaver Dam, Wisconsin

ビーバーのダム作り

ビーバーのダムは木の枝・泥・比較的小さな石などで作られます。

底のほうには石が幾らか転がされて、大き目の木の枝が骨組みというかメインの壁となって、中の泥や小さめの枝を支えるようになっていて、水をせき止めます。

ビーバーのダムは人工ダムと同じく水の流れを完全に止めてしまうわけではなく、ダムの「下流側」では量を減らしながらも水は流れ続けるのが一般的です。

ビーバーが作った「ダム」のイメージ

ビーバーは、まず最初は川の底に石や木の枝などを貯めて積み上げて行きます。そして、泥や枝を積み上げていく作業を続けて次第に水の流れを大きく抑制する高さの「ダム」に仕立てあげます。この時に泥を掘る作業も含めて、比較的小さな前足が使われます。(後ろ足は主に水泳に活用されます。)

木の枝や木の一部は強力な前歯によって木から削り取られて水中まで運ばれてきたりします。場合によっては木の幹が削られて細くなった結果、倒される事もあるとされます。

春と秋に特にダム作りが活発になると言われますが、年間を通してダム作りや補強が行われる場合もあるようです。個体差はあるでしょうが、一般的にはできるだけダムを高く・長くしようとする習性があるようです。

ビーバーは夜行性で、日が沈む頃に起きて活動を始め、日が昇ってくる頃に眠ると言われます。従って、ダム作りも多くの場合は夜中に行われていると考えられます。

ビーバーがダムを作る理由とビーバーの「巣」

ビーバーのダムが出来上がると、「池」が出来上がります。ヒトが作るダムで言えば水が貯められている「ダム湖」です。ビーバーは、作り上げた池に巣を作り、その池で生活するようになります。ビーバーの巣(英:lodge とか house とか呼ばれる)もまた、ダムと同じ材料で作られます。外側の見た目は、何だか川辺のゴミが土と一緒に集められて山積みにされたようなイメージでしょうか。

ビーバーの巣は主に池の岸辺近くにあり、外観は水中から盛り上がった木の枝と泥の山のような見た目です。

ビーバーの巣の入り口と通路は、必ず水中に作られます。そして、池水面の高さまでは水がありますが、そこからは空気がある空間ができるのでそこで子育てをしたりします。

そのようなビーバーの生活スタイルは、外敵から身を守る事に役立っていると言われます。(逆に、もしワニなどの水中で活動する外敵がいる環境ではそのメリットは成立しないと考えられます。)

また、ダムによって水の流れをせき止めるので上流側の水域が広がり、水泳が得意で陸上での動きは苦手なビーバーにとっては「移動がしやすくなり行動範囲が広がる」というメリットがあるとも指摘がされています。

ところで、冬季などにおいては水は流れがあるほど凍結しにくく、流れがあまりない場所ほど凍結しやすくなります。ビーバーがダムによって作る池も、冬季には水面が凍る事があります。この時にビーバ-は冬眠するわけではなく活動を続けますが、秋のうちに食料となる植物の枝や茎を巣の近くに水中に貯めておき、冬季に食べるという事があります。(冬季の水中の温度は低いので貯めた食料は腐りにくいようです。)つまり冬季にはビーバーは凍った水面の外に出る事なく、巣と水中への出入りだけでエサを食べれるわけです。そのような事は、ビーバーの生息域の中でも特に北部の地域でよく見られるようです。

ビーバーの池・ダム・巣のイメージ
冬季には地域によっては「池」の水面に氷が張る事もあり、池の底の冷水は食料となる木の皮などを保存する場所にもなります。

ビーバーのダムの「規模」

さて、そのようなビーバーによって作られたダムはどの程度の規模の大きさなのでしょうか。調査によると、大体の場合はビーバーのダムの高さは川底から2~3mの範囲で、ダムの長さ(つまり川をせき止める場所の川幅)に関しては数mくらいのものもあれば、100mにまでも達する場合があると言われます。

川幅が100mと言うと、確かにそれなりの長さを感じさせますが実際の河川で言うとどれくらいのイメージでしょうか。

東京都内の隅田川の浅草吾妻橋付近(地下鉄浅草駅の近く)の川幅が大体115m、関西の淀川に繋がる宇治川の幅が宇治市内で大体50m~100m前後なので、ビーバーのダムが幅に関してはそれなりの長さを持ち得る事が分かります。

他方で、同じ東京都内の荒川の平均川幅は約150mです。また、関東でも関西でも海に近い下流域になると300~600mの川幅の河川もあり、合衆国のミシシッピ川などは下流でなくても500m近い川幅の流域もあります。

  • ビーバーのダムの長さ:普通は数m~100m
  • 隅田川(東京都)の浅草付近の川幅:約115m
  • 宇治川(京都府)の川幅:市内で大体50m~100m
  • 淀川(大阪府)の川幅:100m~600mくらい(下流域ほど広い)
  • ミシシッピ川(合衆国)の某場所での川幅:500mくらい

【参考資料:国土交通省や各自治体の資料、および地図上での測定】

そう見ていくと、規模の大きい河川をビーバーがダムによってせき止めるような事は、川幅の観点からは不可能でない場合も考えられるとしても、基本的にはかなり難しいという事が分かります。

極端な例では、ビーバーのダムで数百メートルに達するものも発見されていると言う学者もいます。

しかし、川の幅だけでなく川の深さも考える必要があるでしょう。

ビーバーのダムの高さは、高くても3m程度です。東京の隅田川の水深は場所によっても異なりますがおおよそ4~6mくらいの範囲だとされています。つまり3mのダムでは高さが足りません。

ビーバーが最大限の力を出せばどれだけ巨大なダムを作れるかは不明ですが、ビーバー側からしても川が深い・流れが速いなどの理由でダムを作るのが大変な場所をわざわざ好んで選んでダムを作りたいとは思わないでしょう。ビーバーとしては安定して住める「巣」を作りたいのです。

そのため、ビーバーがダムと巣を作る川というのは基本的には浅くて川幅もなるべく狭いような「小川」が中心であると考えられます。ヒトによる水力発電所建設のように「巨大なダム」を作る事はないわけです。

ビーバーの「池」の深さ

ビーバーがダムによって形成し、巣を作る場所となる「池」(ダム湖に相当)の深さはどれ程なのでしょうか。

調査によれば、ビーバーが作った池の深さは大体が1m以下で、深くても3m程度だと言われています。

また、ビーバーは巣の中で水の無い空間を作って居住部屋とするわけですが、入口と通路を水中に作る事から、「池」の水面高さまで水は上がってきます。従って、ビーバーの巣は水面よりも高い位置まで盛り上がっていないといけないわけです。仮に池の深さが3mだったら、巣は池の底から3mよりも高く作る必要があります。

この事からも、ビーバーが水をせき止めてダムを作る川というのは比較的浅い川である事が伺えます。仮に能力を最大限に発揮して深い河川にダムを作ったとしても、今度は上流側の「池」に巣を作るのが大変になってしまいます。

ビーバーのダム建設による自然への影響は?

生態系エンジニアとしてのビーバーの評価

ビーバーのダムはヒトのダムと比べれば小規模です。

しかし川の水をせき止めて水の流れを変えてしまうわけですから、元々のその場所の自然環境を変えてしまう事は間違いありません。

それは「自然破壊」と言えるのか、あるいはそのように呼ぶべきものでしょうか?

生物学者の一般的な見解では、ビーバーは「生態系エンジニア」として確かに元々のその場所の環境を改変してしまうけれども、それによってビーバーだけでなく他の生物(主に水棲生物)も池の中で外敵から身を守りやすくなるという「良い影響」のほうを重視しているようです。

つまり、環境は改変されるけれども、改変後の環境はそれはそれで新しく安定した生態系をその場に作り上げるという感じでしょうか。

また、ビーバーのダムによって多くの水がせき止められ下流側の水が減るので、川の下流側で洪水や氾濫が起きにくくなるという主張も存在するようです。ただし、先述のように大規模な河川にビーバーがダムを作る事は滅多にないとも考えられます。そのため、人の町に大規模な被害をもたらす規模の洪水を防ぐ効果がビーバーのダムに本当にあるのかどうかの真意は不鮮明です。

ビーバーのダムと農村の「里山」の類似点

ビーバーの環境改変に対するポジティブな見方は、日本列島で言えば旧来の農村の「里山」に対する多くの生物学者による評価に似ていると言えます。

「里山」とは農村で水田・畑およびため池・用水路などが作られ、周囲の山林で定期的に樹木の伐採・下草刈り・落ち葉かきがなされて形成された環境を指します。【周囲の山林だけを里山と呼び、農村部分は「里地」と呼ぶ事にして区別する場合もあります。】

その独特の環境下で暮らしやすい生き物がそこに定着するようになり、多様で安定した生態系が維持される事になります。

それはもちろん元々の自然をヒトが改変しているわけですが、それによってヒト以外の動植物もその環境下で新たに安定した生態系を作り上げています。そのような一種の安定した「共存」が成立してきたというポジティブな側面が里山にはある、という事が学者からは強調されています。

【※ただし、現在では水路がコンクリート壁で固められたりする事により、多くの農村で従来の安定した環境としての「里山」が破壊されているという指摘もなされています。】

ビーバーのダム作りも、農村の里山のように考えると一方的な「自然破壊」ではないと考える事ができそうです。ビーバーが川に住むようになってダムと池を作ると、それはそれで新たに定着する水棲の生物などが増え、安定した自然環境と生態系が作られるためです。

ビーバーによる獣害問題

ヒトにとってビーバーは悪になり得るのか

では、ビーバーによるヒトに対する獣害問題は、ダム作りの事も含めて存在するのでしょうか。

結論を言うと「現時点で社会全体から見て大問題という程度のものではないが、存在しないかというと一応存在する」というのが実情のようです。

1つ目は、どんな野生動物にもあり得る事ですがヒトと動物が接触してヒトが攻撃されるパターンです。

2つ目は、ビーバーのダムが関係します。ビーバーが新たにダムを作る事によって周辺の水域に変化が生じる事で特定の人の土地などに害を与える事がある、というパターンです。

ビーバーがヒトを襲った事件

合衆国では、稀にですが湖などで人がレジャーで水泳・遊泳中にビーバーに遭遇して「噛まれる」事件が起きています。

2023年度の事ですが、ある湖で少女がビーバーに噛まれたという事件を合衆国のメディアが報じました。

先述の通りビーバーは中型犬程度の体の大きさを持っていて、肉食性ではないけれども樹木を削る強力な前歯を持っています。従って、もしビーバーに本気で噛まれたとしたら、それは「ほんのちょっとだけ痛かった」では済まない事が容易に推測されます。ただし噛まれた少女が大怪我をしたという事は報じられていません。(それ以上に、父親がそのビーバーを叩き殺した事が見出しに・・・。)

当該事件のビーバーの体重は推定すると大体22~25kgの範囲だったとされています。(体重50ポンドか55ポンドくらいと推測される、と報じられている。)だとすると、ビーバーの中でも大きめの個体であった事が分かります。

【※「水泳中に襲われて噛まれた」という事にも少し注意が払われるべきで、先述の通りビーバーは陸上での動きは遅く・鈍い動物なので陸上で人がビーバーに追い回されるという事はかなり起きにくい事だと考えられます。少女を噛んだビーバーは水中にいたか、岸のすぐ傍にいたと思われます。】

その後、その少女を噛んだビーバーは狂犬病ウィルスを保有していた事が判明しました。それで、報道ではむしろその事のほうが問題視されたようです。

しかしビーバーが人を襲う事自体が稀です。2023年に少女が噛まれた件での湖では10年以上に渡ってそんな事は起きなかったとされています。言い換えると10数年前には同種の事件が少なくとも1度以上あったという事ですが・・・。

また、そのビーバーが「狂犬病にかかっていたので」正常の思考状態ではなく、頭がおかしくなっていて少女に嚙みついたとも考えられる、との事です。

事件が起きた湖は合衆国東部のジョージア州のラニアー湖(Lake Lanier)です。州都アトランタから北東50kmくらいの場所にあり、観光地としても知られています。偶然ですが、その湖は人によるダム建設で形作られた「ダム湖」だそうです。ラニアー湖は全体としては結構入り組んだ複雑な形状の湖であり、周囲から細かく枝分かれするように小さな湖や河川的な水域がある事が地図からは見てとれます。場所によっては湖岸近くの小川や湿地帯に「ビーバーのダム」もあったのかもしれません。

【事件概要の出典:cbsnews.com 2023年7月13日のウェブ記事:50-pound rabid beaver attacks girl swimming in Georgia lake

ビーバーの事件があったラニアー湖(Lake Lanier)は、複雑な形状のヒト由来の「ダム湖」です。

人の所有地などにビーバーがダムを作ってしまう場合

上記のビーバーがヒトを襲ってしまうというケースは頻度としてはかなり稀である事に加え、どっちかというと人のほうがビーバーの生息場所に立ち入って不運にも衝突してしまったという状況に近いと言えます。

それに対して、人が所有している土地(主に農地や山林)にビーバーが住み着いてダムを作り、問題を起こすケースも存在するようです。あるいは、ビーバーのダムは下流側の水の流量や上流側の水域を変化させてしまうので、誰かの所有地に直接ダムが作られていなくても近隣の所有地に影響を及ぼす可能性があります。

それが誰か人にとって迷惑行為以外の何物でもなかったり、損害を被るものであったとするとまさに獣害問題に該当するわけです。これも比較的少ないケースであるとは考えられますが、海外では実際に起きた事があるようです。

もちろんビーバー側から見ると、そこにダムを作ると損害を受ける人がいる場合がある、という事が分かりません。そこに近付くとヒトとの衝突が起こる、と動物側が学習すれば問題は回避できるのでしょうが、残念ながら必ずしもそうはなりません。

ビーバーのダム形成が獣害問題となる場合というのは、野生動物が食料を求めて農地を荒らしたり、ゴミを漁りに街中にやってくるパターンの獣害問題とは多少性質が異なるように思われます。なぜなら、後者の場合は動物側が「一応人がいると分かっている(と思われる)」中で人の居住地や農地に侵入してくるものだからです。しかしヒトと野生動物の利害が衝突するという構図としては、両者には類似性があります。

普通に小川が流れていた場所にビーバーがダムを作ると、多くの水がせき止められるので下流側の水の流量が減り、逆に上流側の「池」の水の量が多くなります。すると、例えば上流側で水が流れ込んで欲しくないと人が思っている場所が水に浸かってしまう、という事が発生する可能性が出てくるわけです。

そのような時、迷惑を被っている当事者からすると強行手段として川に出向いてビーバーのダムを破壊する事があるようです。手作業・農具などでダムを壊す事もあれば、重機を使って撤去するパターンもあるようです・・・。

【参考:youtube の「msTECH86」チャンネルさんはビーバーのダムを撤去する様子を撮影した動画を複数アップロードしています。ダムが撤去されると、上流側に貯まっていた水が下流側にドっと流れ出て行きます。】

ビーバーのダムによって元々の環境が改変される事は、「人がいない」環境下では新たに安定した生態系を作るものとして認識されるわけですが、逆にそこに人がいてしかも迷惑を被るとなると「獣害問題」となってしまうわけです。

そういった獣害問題が仮に今後拡大するような事があると、今度は「ビーバーを駆除する」事が正当化される事が容易に予想できます。ですが、ビーバーは絶滅危惧種に該当する動物ではありませんが近代以降にヒトによる乱獲があって数を減らしたという事実も忘れるべきではないでしょう。(英国の大ブリテン島などでは既に近代以前にビーバーは絶滅してしまったという事は上述した通りです。)かと言って、現に損害を受けた当事者の人に対して泣き寝入りしてガマンせよと言うわけにもいきません。

ビーバーのダムの撤去が正当なものと言えるのか、逆にヒトによる自然破壊になってしまうのかは、ヒトへの被害の状況にもよると考えられるので複雑な問題だと思われます。

解決策としてはヒトと野生動物の「住み分け」がきちんとなされる事かと思います。しかし動物とは直接話し合いができないところに、この種の問題の解決の難しさがあります。

山椒魚とサラマンダーとサンショオール

動画ナレーション:小日向南さん

山椒魚(さんしょううお)は両生類の仲間、つまり蛙(かえる)の仲間です。英語ではサラマンダー、ラテン語でサラマンドラなどと呼ばます。

アジア~ヨーロッパの大陸に住むファイアサラマンダーの学名は Salamandra Salamandra です。

山椒魚の一種であるファイアサラマンダーはファンタジーの火トカゲのサラマンダーのように火を噴くわけではありませんが、何らかの理由で海外では山椒魚からファンタジー的なサラマンダーの伝説が出来上がったようです。

火の精霊や火トカゲとしてのサラマンダー伝説は、火の燃料にする木材の陰に山椒魚が潜んでいて木と一緒に火に入れてしまう事が多く、慌てて逃げ出した山椒魚が「火から出て来た」ように見えたという説があります。但しそれはあくまで説の一つです。また、伝説の方が先に存在した可能性も否定はできないとも言えます。

日本語での「山椒魚」の名称は、植物の山椒(さんしょう)にちなんでいます。山椒魚の粘液には独特の臭いがあり、それが山椒特有の臭いのようなので山椒魚と名付けられたという説が従来からありました。

しかし、実際に臭いをかいでみると、山椒魚の粘液の刺激臭と山椒の香りは随分と違うと感じる人が多いとも言われます。

また主観的でなく科学的にも、山椒魚と植物の山椒との関係は残念ながら否定的な見解が出ています。山椒の香りの成分は化学的にはサンショオールと名付けられています。しかしその物質は山椒魚の粘液を調べてみたところ、検出されなかったようです。

粘液にはサンショオールが含まれていなくても、山椒魚の体内からサンショオールかそれに極めて似た構造の物質が今後発見される可能性は無いわけではありません。しかし「山椒魚」という名称は誤解から付けられたという説が現在では濃厚になっています。

サンショオールは生体内の多くの化学物質と同様に単純な構造の物質ではありませんが、直鎖状の部分が多くベンゼン環などの環状の構造は含んでいません。

写真提供:pixabay.com 7848氏,Lutz Peter 氏

人が耳で犬に勝る部分【可聴領域】

人は嗅覚や、聴覚の可聴領域に関して大抵の事では犬や猫に劣っています。

ただし、一部人のほうが犬や猫よりも勝っています。

それは、実は聴覚に関して「音が低い領域」です。

ナレーション:小日向南さん

低い側の可聴領域における人と犬や猫の差は、ほんの僅かな違いです。

また個人差・個体差があるのも当然ですが、犬や猫は40Hzくらいの低い音が聞き取れる限界です。しかし人の場合は20Hzくらいまで聞こえると言われています。

この20Hzという高さの音は相当低い音で、男性の低めの声よりもずっと低い音です。日常でそんなに多く聞く音ではないと思います。従って、犬や猫が男性の低い声を聴きとれないという事ではないと言えます。

その他にも、短く区切った音の識別なども実は人のほうが犬や猫よりも優れていると言われます。これは、言葉の聞き取りに関係すると言われているのです。

人と動物とで、どちらが能力的に優れているか一概に断じる事ができない興味深い例であると言えます。

動画には一部 pixabay.com の素材を使用しています。

漫画とかでのコウモリのイメージは偏見なのか。それとも・・

■動画ナレーション:小日向南さん

物語などで描かれる動物のイメージは「人間が勝手に想像したもので偏見だ!」と言われる事もありますが、善悪の区別等を別問題とすると「あながち間違ったイメージばかりでもない」という事もあったりします。

その1つはコウモリであると言えるでしょう!

漫画等でのコウモリのイメージはお世辞にもあまりプラスのイメージとは言えません。しかし、それらは実際のコウモリの特徴や習性をある程度は反映しているものであるとも言えます。

コウモリには非常に多くの種類がいて、日本やオーストラリア、ニュージーランドも含めて世界中の多くの値域に広く分布しています。しかしコウモリが住めない地域も存在し、北極や南極、グリーンランド、カナダやアラスカ北部、シベリア北部などの非常に寒い地域には生息が見られないとされています。

コウモリは一般的に小さい体格の動物ですが、一部は翼を広げると1メートルを超すようなものも存在します。

和名英名学名生息地など
翼手目(コウモリ目)batsChiroptera世界中の地域
極地や寒帯の一部を除く
サシオコウモリ科Sheath-tailed batsEmballonuridae世界各地に広く分布
数cm 40g以下程度
ブタバナコウモリ科Hog-nosed batsCraseonycteridae東南アジアの一部
3cm 5g 以下程度
ミゾコウモリ科Slit-faced batsNycteridiae地中海近辺と東南アジア
数cm 30g以下程度
アラコウモリ科
(チスイコウモリモドキ)
False Vampire batsMegadermatidaeアフリカ・東南アジア・
インド・オセアニア
14cm 200g以下
キクガシラコウモリ科Horseshoe batsRhinolophidaeヨーロッパ・アジア・日本
11cm 40g以下 約70種
カグラコウモリ科Leaf-nosed batsHipposideridaeアフリカ・東南アジア・
オセアニア
日本(石垣島・西表島など)
14cm 120g以下 約60種
クチビルコウモリ科Leaf-chined batsMormoopidaeアメリカ大陸、カリブ海
8cm 25g以下
ウオクイコウモリ科Bulldog / fisherman batsNoctilionidae南米~中米
14cm 70g 以下
小魚を獲る
ツギホコウモリ科Short-tailed batsMystacinidaeニュージーランド付近
6cm 30g程度
ヘラコウモリ科Spear-nosed batsPhyllostomatidaeアメリカ大陸
14cm 200g 以下 約140種
チスイコウモリVampire batsDesmodontidae南米~メキシコ
9cm 50g 以下
アシナガコウモリ科Funnel-eared batsNatalidaeメキシコ~ブラジル、
カリブ海
5cm 10g 以下
ツメナシコウモリ科Thumbless batsFuripteridae南米~中米
6cm 5g 以下
スイツキコウモリ科Disk-winged batsThyropteridae南米~中米
5cm 5g 以下
サラモチコウモリ科Sucker-footed batsMyzopodidaeマダガスカル
6cm 程度 珍しい
ヒナコウモリ科Common / Vesper batsVespertilionidae世界各地に広く分布
10cm 60g以下 約320種以上
オヒキコウモリ科Free-tailed batsMolossidae温帯~熱帯の世界各地
12cm 200g 以下 約90種
オナガコウモリ科Mouse-tailed batsRhinopomatidaeアフリカ~アジアの
砂漠・サバナ
8cm 25g 以下
オオコウモリ科Flying foxesPteropopidae熱帯~亜熱帯の
アフリカ・アジア・
オセアニア
40cm 15g ~1.5kg
(翼を広げると~2m)
170種以上
他のコウモリとは系統が
違うという説もあり

動物には「霊」が見える?【生物学的に動物が感知できるがヒトには感知できないもの】

動物には霊が見える(?)なんて言う人々がいます。しかし、実際のところはどうなのでしょうか。

何もないところを犬や猫がじっと見つめている。そこには・・・。

「霊もお化けも存在しない」と思う人でも、ペットが何も無いところを見ていたら要注意?

※この記事はスピリチャルな内容ではなく、生物学的な内容です。

■ナレーション:小日向 南(こひなたみなみ)様

さて、結局のところどうなのでしょうか。

犬や猫の嗅覚と聴覚

犬がヒトよりも格段に嗅覚が優れている事はよく知られています。猫も、犬ほどではないけれどもヒトよりも嗅覚が優れています。警察犬が被疑者や物質の僅かな臭いの痕跡を辿ってヒトの捜査に協力してくれる事はよく知られていますね。

また鼻だけでなく耳も同様で、多くの場合には犬や猫は聴覚的にもヒトよりも敏感です。すなわち、ほんの僅かな音であってもヒトよりも察知する能力に優れています。ですので、「何もないはずの所」に何か嫌な虫や小動物がいるなんて事も実際にあり得るわけです・・・。

「猫がネズミを獲る」などとよく言われるのも単なるイメージやフィクションではなく、歴史的に見ても猫はネズミを狩る事で昔は世界の色々な地域で重宝されていたのです。

ネズミは穀物を食い荒らしたり病原菌を媒介したりするので、ネズミをやっつけてくれる猫は単に可愛いという事抜きにも「利益的で役に立つ動物」であったわけです。その事は、猫が犬同様に嗅覚や聴覚が優れている事と明らかに関係があると見てよいでしょう。(もちろん、その他にも猫は音を立てずに忍び足で獲物に近寄って一気に襲い掛かるといった事が犬よりも得意であるといった事なども関係しているとも思います。)

ヒトには聞こえるが犬には聞こえない音も存在?

さてここで、「動物は一般的に本能的な事に関してはヒトより優れている」とざっくり言う事もできそうに思えます。しかし、実は単純な「優劣」というよりは、ヒトも含めてそれぞれの動物はそれぞれの「感知能力の範囲の違いがある」という事であります。

例えば、聴覚で言うと音には「高い音」と「低い音」があって物理的は「振動数(周波数)」でそれは特徴付けられるものですが、全ての周波数の音を耳で聴覚として聴きとれる動物というのは基本的にはいません。ある一定の範囲の高さの音だけが聞こえて、その範囲外では聴覚としては感知できない事が普通なのです。聴覚として聞こえる音の高さの事は「可聴領域」などと呼ばれたりします。

ヒトと犬や猫とでは、その可聴領域が異なります。

簡単に言うと、「高すぎる音」や「低すぎる音」というのは動物が聴覚として感知できなくなるものであって、そしてどの程度の高さの領域の音がそれに該当するかはヒトも含めて動物の種類ごとに異なるという事です。

ですので、臭いと同様に音に関しても「ヒトには聞こえないけれども犬や猫には聞こえるもの」が存在するという事自体は実は「科学的に正しい」のです。(それをお化けが発しているのかどうかは別問題として!)

また、一般的にヒトよりも犬猫のほうが広い可聴領域を有しているのですが、実は犬に関しては「低い音」に関してはほんの僅かながらですがヒトよりも可聴領域が狭いという報告がなされています。

つまり、低い領域の音に関しては「犬には聞こえない(聞こえにくい)がヒトに聴覚として感知できる」ものも存在するという事です。その事自体は実用面では割とどうでもよい事かもしれませんが、感覚の「優劣」は単純に決まるとは限らず動物の種類によって得意な部分と不得意な部分がある事を示す例であると言えます。

■ナレーション:小日向 南様

実は「低い」音の聴き取りに関しては僅かながらヒトのほうが犬よりも可聴領域が広く「勝って」います。(もちろん個体差・個人差もあります。)

視覚についても「人には見えないが動物には見えるもの」が科学的な意味で存在する

そして、ここまでは嗅覚や聴覚について触れてきましたが、実は視覚に関しても「ヒトには見えないが特定の動物には見えるもの」が存在する事が科学的に実証されています。これは犬猫よりもむしろ虫などの無脊椎動物に関して特筆すべきものがあるものですが「色」に対する視覚としての感知能力が動物によって異なる場合がある事が報告されているのです。(もちろん、近視や遠視などの観点からの「目の良さ」の違いも存在します。)

そこまで行くと、「動物にだけ感知できるもの」や「ヒトにだけ感知できるもの」が存在する事自体はむしろ科学的分析によって実証されているとも言えます。もちろんそれはスピリチャルな話と科学的分析を直接結び付けるものではありませんが、やや皮肉な分析結果であったとでも言えましょうか?

「けもの偏」を部首に持つ漢字の動物と持たない動物の違いは何か?

狸、狐、猫や狼などの動物を表す漢字は「獣偏(けものへん)」という部首を持っています。犬にも「狗」という漢字が存在して、同じく獣偏を部首に持っています。

しかし馬や牛などは漢字に獣偏を持たず、熊なども同じく漢字に獣偏が見当たりません。これらの違いは何なのでしょうか?

ナレーション:小日向南さん

獣偏が付く哺乳類

獣偏が付く狐や猫などの動物を、日本に住むものを中心にまとめてみました。

  • 狸【タヌキ】
  • 狐【キツネ】
  • 猫【ネコ】
  • 狼【オオカミ】
  • 犬(狗)【イヌ】
  • 猪【イノシシ】
  • 猿【サル】
  • 狢【ムジナ】(あなぐまの事。むじなと狸は異なる動物
  • 獅子【しし。ライオン】
  • (獣偏に「生」と書いてセイと読み、イタチを表す字もあるという)

この他には「狼狽(ろうばい)」という言葉に使われる「狽」と言う文字は元々は狼の一種を指すとか、すごく見慣れない字でカワウソを「獺」と書くとか、犬の一種の「チン」を「狆」と記すなど、そういった例が少し見受けられるだけのようです。

他の獣偏が付く漢字としては
「狩る」「猟(りょう)」「狙う(ねらう)」「獲(カク、とる)」
「狭(キョウ、せまい)」「狡い(ずるい)【狡猾(こうかつ)】」
「狂」「犯」「独」「獄」「獰猛(どうもう)」など、
「ケモノ」から何となく連想できそうな言葉が中心です。
ただしそれらはいずれも動物を直接指すわけではなく、むしろ人間の形容や行為にも多く使われています。

ところで「豹(ヒョウ)」に関しては、実は部首は獣偏ではなく「むじな偏」です。
猫・狢(むじな)・狸・猪に関しては、そのむじな偏を使ったバージョンの字も昔は存在し、しかも猫・狸・猪では本字であったと言われています。もし獣偏とむじな偏を区別するなら、獣偏を部首とする動物の漢字はさらに意外と少ない事になります。

獣偏が付かない哺乳類

逆にウシやウマなどの獣偏が付かない漢字で書かれる動物についても、
日本にいるものを中心に整理してみました。

  • 驢馬【ロバ】
  • 駱駝【ラクダ】
  • 鹿
  • (カモシカは羚羊などと書く)
  • 鼬(イタチを表す字で獣偏がつかない版の字)
  • 栗鼠【リス】

日本にいない動物で「きりん」などはそんなに深い意味も無く想像上の動物の「麒麟」を当てたと言われているので、そういうものはここでは除いて考えました。

また、ラッコなども元々アイヌの言葉で漢字は当てたもの(海獺・猟虎)と思われますから別扱いとしましょう。また鯨やイルカ(海豚)、こうもり(蝙蝠)に関しては昔は哺乳類とは考えられていなかったという事で同じく別扱いにします。

しかしそれでも尚、「獣偏が付かない哺乳類」は「獣偏が付く動物」と同数程度はいると言えそうです。

一見すると肉食か草食かの区別にも思えますが、熊や虎などの肉食/雑食性の大型で強い動物にも獣偏がありません。その理由は何かあるのでしょうか。

尚、漢字の部首としては牛、馬、羊、鹿に関してはそれぞれの独自の部首である「牛偏」「馬偏」「羊偏」「鹿」が存在します。

  • 牛偏の漢字の例:「牧」「物」「犠牲」「牢」「特」「牡(おす)・牝(めす)」
  • 馬偏の漢字の例:「駅」「駐」「騎」「驚」「駒(こま)」「驕(おごる)」「駄」「馴(くん、なれる)」
  • 羊偏の漢字の例:「群」「着」「義」「美」
  • 鹿(部首)の例:「麗(れい。うるわしい)」「麓(ろく、ふもと)」

獣偏の意味

言葉や語源というものは簡単に特定・断定できるものではありませんが、ある程度の根拠をもって推理できる事はあります。

問題となっている「獣偏」ですが、実はこれは「獣」という字に「犬」の字が含まれているように、部首としての獣偏の基本となる意味は「犬」だと言われているのです。犬という字が変形したと見られています。
(出典:旺文社『漢和辞典』より。以下、漢字の成り立ちの出典は同じ。)

ですので、部首としては獣偏と「犬偏」は同一視される事もあるそうです。犬偏の漢字としては数は多くないですが大元の「犬」も含めて「獣」「献(ささげる)」「状(犬の「すがた」の意から形や様子を表す意味に転じたらしい)」

「けものへん」の元々の意味は「イヌ」!

また「ケモノ」という言葉は元々「毛物」とされ、獣という字は「毛に覆われた4足の動物」という意味合いが含まれると言われます。

それら2つの観点から推理すると、獣偏が付く動物というのはおおよそ次の特徴を持っている事が伺えます。

  • 見た目や性質が犬に似ている
  • 毛むくじゃら/毛がふさふさである事

そう捉えると、狐や狼が「犬に似た動物」として獣偏が付いて猫や猪も広い意味で後に同じ部類に含めるように考えて、
牛や馬、羊やネズミはどっちかというとそれらと区別を付けているとすればある程度の納得が行くようにも思えます。

肉食・草食の区分でもおおまかには合っているけれども、どちらかというと見た目や性質での区分だったのかもしれません。(猫の部首を元々はむじな偏として分けていた事なども含めて。)

そう考えると、熊や虎に関しては体の大きさや性質等から「犬系の獣」とは異なる(むじなとも異なる)という見方も見えてきそうです。

ちなみに虎は日本にはいませんが大陸には中国東北部やインド~東南アジアなどに野生の虎は存在するので、東アジアの領域で見るとキリンやゴリラのように非常に遠く離れた地にしかいない動物というわけではありません。他方でライオン(=獅子)は多くがアフリカに住んでおり、ごく一部がインドの西部にいる動物です。

熊と虎の場合の漢字の成り立ち

獣偏は確かにつかないが、牛や馬とは明らかに性質が異なると思われる
に対する字の成り立ちを見ます。

「熊」の部首:「れっか」

まず熊(クマ)から見てみると、一見すると下の部分が「魚」と同じであって「シャケを獲るのが上手だから???」などとも思ってしまうかもしれませんが、実は「熊」という字の部首は「魚偏」ではなく「れっか」(または「れんが」)で、これは「火偏」が漢字の「脚」になる時の形だという説が有力視されています。

字の成り立ちとしては元々が「火の光が燃え盛る様子」を表し、転じて動物の熊を表すようになったというのです。それが伺える言葉としては「熊虎(ユウコ)」や「熊羆(ユウヒ)」という語は「勇猛な人」の例えとして使われてきたと言います。
(熊羆の「羆」は北海道のヒグマに充てられている字。)

熊と同じ成り立ちの「れっか」を部首として持つ漢字としては、例えば
「熱」「燃」「烈」「熟」「煮」「点」などがあります。
確かに言われてみると火やそのイメージに関連するものが多いと言えます。

熊も一般的に非常に強い動物なので「普通の獣」とは区別する意味で昔の人から見て勇猛と強力のイメージで特別扱いだったのかもしれません。
(狼ももちろん強いが、群れで襲いかかる。熊は母子を除くと多くが単独行動。)

(「れっか」の部首について、「然」の字も元々は「燃える」の意味。転じて是認・容認を表すようになったと言われます。それに対して「無」の字は部首はれっかですが成り立ちはむしろ装飾物を見立てた象形で「舞」の原字であるとされます。)

尚、いわゆる「魚偏」は「魚」という形をひとまとまりにしてそのように呼ぶのが普通になっています。熊が捕まえるシャケのように「鮭」といった形で使用して、火の意味の部首の「れんが」とは一般的に区別されているのです。

「虎」の部首:「とらかんむり」

では、縞模様が特徴的でアジアに住む虎(トラ)に関してはどうでしょうか。

実は虎の場合は「とらかんむり」または「とらがしら」と呼ばれる独自の部首を持つ漢字となっています。

「とらかんむり」を部首に持つ漢字としては、「虎」「虐(ギャク、しいたげる)」「虚(キョ、むなしい)」「虜(とりこ)」などがあります。(ただし「虚」に関しては土偏の字が元々で「くぼんだ丘」の意。)虎の字は、勇猛であるというイメージの他に「むごい」という意味合いもあったようです。

トラと読める時には「寅」もあります。この「寅」の字も動物のトラを表しますが、
どちらかというと動物よりも方角・時刻・暦の意味で使われるのが主とされます。
(ね・うし・とら・たつ・・・のトラは基本的に「寅」のほうの字。)

ちなみに「豹」はアフリカとインドから東アジア・東南アジアにかけて住む動物です。体長や体高は豹と虎とで似ていますが体重は倍以上違うとも言われています。
(豹が普通は100kgを超えないとされるのに対して虎は130~260kgとされる。)それが両者の漢字の作りに表れているのかどうかは謎です。

動物を表す漢字の分類を整理

以上の事から哺乳類を表す漢字を大まかに分類できそうです。

  • 「犬に似る・毛むくじゃら」のイメージが獣偏(うち、一部は元々むじな偏)
  • 獣の中で特に大型で強い熊や虎は特別扱いで、独自の部首を持つ
  • その他の草食動物やネズミなどの動物群に獣偏はつけない
  • 鯨などの、昔は哺乳類とは考えられなかったものも同様

また、この事を部首の違いによって下表にまとめました。

部首等による分類動物
けものへん(獣偏)狗(狗)・狐・狼・猿・獅子
似た部首として
むじな偏
猫・狸・猪・狢(むじな)については
現在「獣偏」だが「むじな偏」を部首とする字体もある。
他には、豹
れっか・とらかんむり熊(部首:れっか)・虎(部首:とらかんむり)
牛偏・馬偏・羊偏
鹿・鼠など
牛・馬・羊・鹿・豚・鼠・羚羊(かもしか)
驢馬(ろば)・駱駝(らくだ)・栗鼠(りす)
哺乳類だと思われて
いなかった類の動物
鯨、海豚(いるか)、蝙蝠(こうもり)など
【部首:さかな偏、水・さんずい、むし偏】

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ラクダ大国オーストラリアの獣害問題

2023年現在、オーストラリアには野生のラクダが生息していて、
年によって変動はありますが2020年頃には推定で100万頭はいるのではないかと言われていました。

しかし実は元々はラクダはオーストラリアでは一切暮らしておらず、オーストラリアの地から見るといわゆる外来種なのです。さらには、現在のオーストラリアは野生のラクダによる獣害問題も抱えています。オーストラリアが「ラクダ大国」になったいきさつや具体的な獣害問題はどのようなものなのでしょうか。

  1. オーストラリアに住むラクダの種類
  2. オーストラリアの野生ラクダの生息場所と砂漠の地理
  3. ラクダが持ち込まれ、そして放置された経緯
  4. ラクダによる獣害と打開策
  5. オーストラリアの色々な外来動物と獣害問題

オーストラリアに住むラクダの種類

オーストラリアに持ち込まれて野生化したラクダは、ヒトコブラクダという「背中のコブが1つだけ」のラクダで、元々アフリカのエチオピア・スーダン・ソマリア・その他北アフリカ地域からアラビア・トルコ・ペルシャ・インドにかけて生息し、また人にも飼われてきた種になります。

いわゆるラクダとしての別の種では「フタコブラクダ」がいて、こちらはモンゴル高原やゴビ砂漠のラクダです。フタコブラクダは、野生種に関してはほとんど見られなくなって絶滅危惧種となっています。

和名英名学名
ヒトコブラクダ
(一瘤駱駝)
Dromedary/Arabian camel/One-bumped camelCamelus drimedarius
フタコブラクダBactrian/Two-bumped camelCamelus bactrianus
フタコブラクダは、砂漠やステップの他に冬に雪が降る地域でも生活。

ヒトコブラクダに関してはオーストラリアで大繁殖して獣害問題を起こしていて、フタコブラクダは野生では壊滅状態というのは奇妙な感じもしますが、一応それが現状という事になっています。

ラクダの背中の「コブ」は脂肪でできていると言われ、脂肪といっても役に立たない体の組織という事ではなくて乾燥の中で水分や栄養を補給するために使われているとされます。また、鼻の穴を閉じるのが得意で砂が入るのを防ぎ、足の蹄も砂地で歩くのに適した形になっている事が分かっています。

世界のヒトコブラクダのおおよその生息数は、20世紀末でオーストラリアのものを除いておおよそ1400万頭と言われていましたが、それ以降減少が見られ始めたともされてきました。

  • スーダンのヒトコブラクダの生息数:280万頭(20世紀末、以下同様)
  • ソマリア:200万頭
  • エチオピア:90万頭
  • インド:120万頭
  • (2020年オーストラリア:およそ100万頭)

「ラクダ科」にまで対象を広げると南米に住むアルパカやビクーニャもラクダ科に含まれる動物となります。

大きな分類では、ラクダ科の動物はウシ・カバ・キリン・鹿・猪と同じ「偶蹄目」に含まれる草食動物です。偶蹄目に含まれない別系統の草食動物にはサイ・馬・バクや象がいます。

偶蹄目奇蹄目長鼻目(ゾウ目)
ウシ・バッファロー
鹿・ムース
キリン・オカピ
プロングホーン
カバ
豚・イノシシ
ラクダ・アルパカ
サイ

ロバ
シマウマ
バク

オーストラリアの野生ラクダの生息場所と砂漠の地理

オーストラリアのラクダは、大陸の西部から中央部にかけて生息していて、過去の調査では特に中央部の砂漠付近に多く生息が確認されたとされています。

オーストラリアはタスマニアを含めて6州と複数の「準州(テリトリー)」に分けられており(※)、それらで言うとラクダはウェスタンオーストラリア・サウスオーストラリア・ノーザンテリトリーに特に多いようです。そこにはいくつかの大きな砂漠も含まれています。他にクイーンズランド南西部やニューサウスウェールズ北西部の一部にも出没するとされています。

※参考:ウィキペディア States and territories of Australia

タスマニア島はオーストラリア領タスマニア州。
また、首都キャンベラと周辺地域は「オーストラリアン・キャピタル・テリトリー(ACT)」という扱い。
ニューギニア島は東部がパプアニューギニアで西部がインドネシア。

名の知れている主なオーストラリアの砂漠の名前を挙げると次のようなものがあります。これらの砂漠は野生のラクダの生息地域に大体が重なっています。

  • グレートサンディ砂漠(ウェスタンオーストラリア)
  • リトルサンディ砂漠(ウェスタンオーストラリア)
  • グレートビクトリア砂漠(ウェスタンオーストラリア~サウスオーストラリア)
  • ギブソン砂漠(ウェスタンオーストラリア~ノーザンテリトリー)
  • タナミ砂漠(ノーザンテリトリー)
  • シンプソン砂漠(ノーザンテリトリー~サウスオーストラリア)
  • サウスオーストラリアの砂漠群(スタート【Sturt】砂漠など)

砂漠と言うと確かにラクダに合っているのかなというイメージです。
オーストラリアの地理についてざっと見てみると大陸の中央からかなり広い範囲で気候的に乾燥気候であり、その中でも特に雨量の少ない砂漠気候が大きな割合を占めていると言われます。

他方で植生の分布を見てみると、本当に岩と土と砂の「植物がほとんどない砂漠地帯」の割合は意外と少なくなって、サバナ(サバンナ)のようにまばらに草や低木、乾燥に強い樹木などが生えている土地も多いと言われているのです。そして実際、オーストラリアの砂漠地帯の風景を見ると意外に植物が生えている光景が広がっている事も少なからずあります。

ラクダが乾燥に強く、砂漠の土地に適応した動物である事はもちろんなのですが、食べ物となる植物も砂漠気候である割には意外と多く生えているという事もラクダの生育に大きく関係していると思われます。オーストラリアのラクダはどっちかというと草よりも低木の葉などを好むとも言われます。

またオーストラリアの砂漠地帯にはいくつもの湖が点在していますが、それらのうちで大きな湖は大体が塩湖であるという特徴も見られます。(同じ特徴は北アメリカのネバダ~ユタにかけての砂漠でも見られます。)

塩湖と言っても実は湖の周囲には植物も生えていたり、一部の鳥などの動物が集まってきたりもするのですが、それでもやはり基本的には人や動物の飲み水には適さない事が多いと言えるでしょう。

比較的大きいオーストラリアの塩湖としてはサウスオーストラリアのエーア湖(Lake Eyre)や、つい最近までLake Disappointment(失望の湖)と呼ばれていて改称されたウェスタンオーストラリアのグレートサンディ砂漠南の「カムピュティンティル(Kumputintil)湖」などがあります。

では、乾燥気候の中で雨量も少ない中で動植物はどこから水を得ているのかと言うと、地下からの湧き水が所々にあると言われています。これは、現地の人も利用すると言われています。場所によっては動物が穴を掘ると水が出て、野生の馬などでは仲間同士で水の取り合いの喧嘩も起こる事もあるようです。そして、この「限られた水資源」もラクダに関する獣害問題に大きく関わっているとされます。

ラクダの具体的な分布は、Government of Western Australia が公式サイトで公表している2013年の調査結果によれば乾燥気候の地域のほとんど全域となっています。また、特に生息数が多いとされるのは大陸中央部で、グレートヴィクトリア砂漠・ギブソン砂漠・シンプソン砂漠の領域に重なる地域です。

前述の通りそれらの砂漠地帯やその周辺にも植物は意外に多く生えておりラクダが食べるものは十分存在するという事と、それでもやはり砂漠なので人の居住が少ない事はラクダの生息域に大きく影響していると推測できます。

またラクダの1日の移動距離は約70km近くと言われています。これは馬(野生)の場合の「1日50km」を上回るものであり、ラクダがオーストラリアの広範囲に生息する要因ともなっています。

ラクダの生息数は、本当に正確な数はオーストラリアでも把握しきれていないようなのですがおおまかな数でいうと次のような推移だと言われています。

  • 1907年まで:約2万頭
  • 2009年:80万頭
  • 2013年:30万頭(駆除や干ばつによるとされる。)
  • 2020年:100万頭(再び増加に転じた。)

ラクダが持ち込まれ、そして放置された経緯

イギリスから現在のオーストラリアへの最初の入植がされたのは1788年の事で、この時に連れて来た動物はラクダではなく馬であったとの事。

しかし内陸部の探検進めていくうちに、馬は砂漠のような乾燥した環境にそこまで強いわけではなく、水が無いと倒れてしまうという事で「だったらラクダを連れてきてはどうか」と考えられたようです。

最初にラクダが持ち込まれたのは1840年頃とされていて、インドや現在のパキスタンやアフガニスタンからラクダを船に乗せて連れて来たとされます。1840年~1907年にかけて約2万頭がオーストラリアに渡ったとされています。

この時に、ラクダの扱いはそんなに簡単ではないので扱い方を教える「アフガニスタン(Afghanisitan)」の人も一緒にやってきて指導にあたったとされます。それらの人達は通称で「Ghan」と当時呼ばれた事があるらしく、現在のオーストラリアの縦断鉄道路線の列車の名前「ザ・ガン(The Ghan)」の元になったようです。

そして実際に、ラクダは馬に代わって活躍したのです。電柱・送電線・鉄道を敷設していく作業においてラクダは大きな役割を果たしたとされます。

オーストラリアの鉄道路線は、ニューサウスウェールズの短い区間で1854年に初めて開通し、その後1878年からは大陸の中央を縦断する路線(現在のザ・ガン号の運行路線)が着手され1929年に完成しています。また、大陸南部を横断する路線の一部(カルグーリー~ポートオーガスタ)は1912年から1917年にかけて完成しています。

さてしかし大陸の縦断鉄道路線が作られている中で、ラクダの需要が次第に減り始めます。パイプラインを敷設して水を輸送する事で乾燥した場所にも馬を連れていけるようになり、オーストラリアでは1890年代から作られ始めたとされる自動車も(のちにトラックなども)1910年近くになると利用される事が増えました。

インド等からのラクダの輸入は1907年までとされているので、その時までには需要が大幅に減った事が伺えます。さらに、長距離の鉄道路線が完成するとさらにラクダの需要は減ってしまい、他の家畜との食料の競合の問題もあってますます需要が減る一方だったようです。

さらに当時はラクダの所有者には余分な税金がかかる制度があったともされていて、飼育自体にも当然費用や手間がかかるので所有者としては生活が苦しくなります。そこで「処分」をするくらいなら野に放とうと考えた人が多かったようなのです。
そして、放たれて野生のまま放置されたものが生き延びて数も増えたのが現在の「オーストラリアの砂漠に住むラクダ」なのです。

必ずしも「用済みになったので片っ端から捨てた」というわけでは無かったようなのですが、本来であれば相当な費用はかかったとしてもインド等に戻すべきだったのかもしれません。

ラクダによる獣害と打開策

野生で増えたラクダと牛などの家畜との間で食料となる草に関して競合が発生する問題もあったようですが、21世紀に入ってからオーストラリアで特に問題視されたのは「ラクダが水を奪いに人家や敷地に侵入する」事でした。特に干ばつの時期に発生する事があったようです。

前述のようにオーストラリアの砂漠地帯では湧き水もあり意外にも植生は多いのですが、水がそこまで豊富というわけではありません。散在する大きな湖は大抵は塩湖であるので基本的にはそれも使えないという事になります。そこで、ラクダは人が住む場所には水があると知っていて(あるいは偶然学習して)、民家に侵入したり農場の柵を破壊したりして敷地内の水を奪ったりする事が発生したのです。

農場の柵というのは、ラクダの侵入のための柵ではなくて放牧した家畜を囲ったり、あるいはディンゴなどの動物の侵入を防ぐために元々設けていた柵であってこれを破壊されると修復する手間や費用は結構なものになるそうです。

また、砂漠内に居住する人々が飲み水に使っていた湧き水をラクダが奪いに来たという事例もあったようです。ラクダが口をつけるので人が飲むものとしては汚れてしまうという問題もあります。

ラクダは乾燥に強い動物ですが、「飲むときには大量に飲む」とも言われています。ラクダが野に放たれた当初は予想も付かなかった事とは思われますが「水」を求めて多くの獣害をもたらすようになったのです。

そこでオーストラリアではハンターによるラクダの「駆除」が行われるようになったほか、人が自ら連れ込んで邪魔になったから駆除するとはあまり良くないと考える人々もいて、「捕獲して家畜に戻す」という事も一部で行われるようになりました。

ラクダからはアフリカやアジア等でそうであるように、ミルクが採れます。野生のラクダは気性が荒い事もあるが、農場で適切に育てればかなり大人しくなる例も多く見られます。観光では一部、ラクダ(もちろん飼育しているもの)に乗れるという事もあるようです。

また、アジア等で現在でもラクダを家畜として使用する場所に捕獲して飼いならしたラクダを「輸出」する事もあると言います。オーストラリアのラクダは体が丈夫で喜ばれるという評判もあるとか。

それらの対策が功を奏したのかは分かりませんが、2023年現在では依然としてラクダはオーストラリアの砂漠に存在するものの、ラクダによる大きな被害の報道はそれほど多くは見られないようです。ラクダによる獣害は果たして収まりを見せているのでしょうか。

オーストラリアの色々な外来動物と獣害問題

オーストラリアでは、外来生物による獣害問題というのは実はラクダに限った話ではありません。前述のようにイギリスからの最初の入植で馬が連れ込まれていて、それも一部が野生化しており、オーストラリアの公機関の調査・公表によると約40万頭に増えていると言います。

また、日本では聞き慣れないかもしれませんがオーストラリアでは「野生化した猫」も存在します。野犬ならぬ「野猫」というわけで、これもまたネズミの駆除などのために連れ込まれたものが野生化したとされています。

同様のパターンは多く見られて、大抵は生態系を乱したり何らかの獣害問題を起こしたりしているようです。ラクダ以外のもののうち、主な動物を挙げると次のようなものです。

  • 馬(イギリスからの最初の入植時などに移入。野生化)
  • ロバ(1866年に初めて移入され、野生化。ラクダ以上に増えているとも)
  • ヤギ(馬と同じくイギリスからの最初の入植時などに移入、野生化)
  • ブタ(同じくイギリスからの最初の入植時などに移入、野生化)
  • 猫(ネズミ等の駆除のために移入したものが野生化)
  • 犬(元々飼育していたものが野犬化。「ディンゴ」とは別扱いだが、ディンゴとの雑種も存在すると言われる。)
  • うさぎ(一部の人が「狩猟用」にするために持ち込んだとされ、野生化)
  • 狐(うさぎと同じく「狩猟用」にアカギツネを持ち込み放った人がいて、オーストラリアでも増えた)

尚「元々オーストラリアにいなかった動物」の中でイヌ科の動物の「ディンゴ(dingo)」に関してはイギリスからの入植以前にも存在して、かなり古い時代に別地域から人の手によってオーストラリアに移入されたという説が有力視されています。ただし、上述のようにそれとは別途に入植者由来の「野犬」も存在します。

オーストラリアに関しては外来生物とその獣害が非常に多い印象も受けるかもしれませんが、日本でも元々いなかったアライグマが全国に広がっているという例などがあるので注意したいところです。また、放置された農場の豚が脱走して野生化し、大きな群を作るようになってしまった事例は日本にも存在します。

歯クジラ(イルカ・抹香鯨)の分類と、生息海域・河川の地理

海獣である鯨には歯を持つものと、歯の代わりに「ヒゲ」を持つものがいて、同じく海獣のイルカやシャチは歯を持つ鯨(歯クジラ)の仲間とされています。歯クジラには多くの種がいますが種類の数で言えばいわゆるイルカの仲間が多いのです。(歯クジラの中でいわゆる「鯨」はマッコウクジラとアカボウクジラ。アカボウクジラは顔つきはイルカにも似る。)

しかしいかんせん、イルカの仲間はどれも見た目が似ていて〇〇イルカ、xxイルカなどと言われても「似ていてよく分からん」と感じるのが普通でしょう。シャチなどは見た目が特徴的ですが残りの40種近くを名前と見た目だけで理解する事など困難です。普通の人には覚えて何の得になるのかという話もあります。

そこで、それらのイルカが暮らす生息地域に注目すると大西洋だけに住むものとか南米の特定の海にしかいないものなどがいる事が分かります。生物学的な分類(科、属、種)に加えてそれらの生息地域について詳しく整理しました。この観点から見る事でどういった地域の海や河川にどのようなイルカ等が生息しているかが分かるようになって、環境問題等との関連も知るきっかけにもなるでしょうから雑学・教養として知っておく価値のある知識となるでしょう。

歯クジラ亜目の科での分類

イルカ・シャチ・抹香鯨は分類学での「目(もく)」のレベルではクジラ目(または鯨偶蹄目)の中の歯クジラ亜目(toothed whale)に分類されます。これらの種類は実際に牙のような「歯」を持ちます。

★ザトウクジラ(座頭鯨)や動物の中で最大のサイズであるシロナガスクジラ(白長須鯨)は「髭クジラ」(baleen whale)の一種で、髭クジラ亜目として分類されます。

歯クジラに該当する海獣は比較的名の知れている鯨でまず考えてみると、次のようなものです:

  • イルカ・シャチ
  • スナメリ(尾びれのないイルカ。瀬戸内海や東京湾にも住む)
  • ベルーガ(白イルカ)・イッカク(ともに北極付近に住む)
  • マッコウクジラ(抹香鯨。巨大な鯨。)
  • コマッコウ(小抹香。サイズ的にはイルカに近いかそれ以下)
  • アカボウクジラ(赤坊鯨。顔はイルカに少し似る)

一般的に言う「イルカのイメージ」のものはマイルカ科に属する「ハンドウイルカ」という種のものだと言われております。

イルカやシャチは「真(マ)イルカ科」に属し、スナメリ(砂滑)という種は「ネズミイルカ科」に属します。ベルーガとイッカクは「イッカク科」にまとめられ、他にも河川に住むイルカの科がいくつか存在します。

また、いわゆる巨大な「鯨」としてはマッコウクジラ科が存在し、その近縁としてコマッコウ科(サイズはイルカ並)があります。「アカボウ(赤坊)クジラ科」の鯨は鼻先が長くてイルカのようでもあるが比較的大型です。

世界の海

世界の海は大きな海洋としては太平洋・大西洋・インド洋があり、極地付近の海は北極海・南極海と呼ばれます。さらに小さい区分として、日本海・黄海・オホーツク海などがあり、さらに地域的には瀬戸内海とか東京湾とかそういったものがあります。

さらに、比較的水温の高い暖流と比較的水温の低い寒流が存在します。基本的には南北極地に近いほど寒流が多く赤道に近いほど暖流が多いと言えますが、寒流が赤道近くの地域にも流れ込んだり、逆に暖流の一部が極地に流れ込む事もあります。すると、同じ緯度でも他の海域と比べて水温がやや下がる事があるわけです。
(つまり寒流と言っても同緯度の海水と比較して冷たいという意味であって、極地のような冷たい海域という事ではありません。ただしどの海でも深く潜ると極地の海水温並に水は冷たくなると言われます。)

例えば南米大陸の西沿岸付近を流れるペルー海流は寒流として知られ、アフリカ大陸南西部沿岸付近のベンゲラ海流も寒流です。ペルー流は流れとしては赤道付近から暖流に転じます。

アフリカの西海岸における北部のカナリア海流と南部のベンゲラ海流も寒流です。他方、赤道の北側付近のセネガル~ギニア湾にかけてのギニア海流は暖流であるとされています。また、カナリア海流・ベンゲラ海流ともにアフリカ西海岸付近に流れ込んだのちは暖流に転じて南北アメリカ大陸へ向けた流れとなります(北赤道海流・南赤道海流・ブラジル海流など)。

ニュージーランド付近の海は南極寒流が流れ込みますが周辺には暖流のオーストラリア海流も流れ込んでいます。

海面の平均温度のおおまかな分布。海水中は温度はもっと下がり、水深1000mを超えると大体どこの地域でも似たような感じで5℃を下回ると言われている。大西洋の北部・太平洋・インド洋深部などでは海の深部の冷たい水が上昇して湧き上がってくる場所があり、良い漁場になっていると言われる。

鯨やイルカは温かい水を好むものや冷たい水で暮らすもの、どちらでもいけるものなどがいます。また季節ごとに暖かい海と比較的冷たい海を行き来する事もあり、それは子育てをするためであったり魚の群れの移動に追随しているためであったり、理由は様々のようです。

また陸の岸近くと沖では海の環境も違ってくるわけで、鯨やイルカも沿岸でよく見られるものとそうでないものがあります。主に陸から離れた沖に住む性質を外洋性などという事があります。

広く海の全域で暮らす歯クジラ(シャチと抹香鯨)

どこの海にでも広く暮らしている種類のものは歯クジラ亜目の中では種類としては意外と少なくて、マッコウクジラとシャチなどが該当します。

ただし、いつでもどこにでもいるかというと季節による変動が見られます。それは例えば繁殖のためであったり魚の群れの移動に連動するものであったりするわけです。

和名英名学名生息地域等
シャチ
(鯱)
【マイルカ科】
Killer whale/OrcaOrcinus orca全ての海域(季節等による移動はあり)
6~7m 4000~4500kg
マッコウクジラ
(抹香鯨)
【マッコウクジラ科】
Sperm whalePhyseter macrocephalus全ての海域(季節等による移動はあり)
18~21m
45000~70000kg

シャチ

いわゆるイルカの仲間で世界中どこの海にでもいると言われるものがシャチです。これはマイルカ科の中で単独でシャチ属を構成します。

歯クジラの中で、唯一アザラシやペンギンなどの「陸上にもあがる動物」を襲うと言われています。また他のイルカをも襲い、大型の鯨をも襲って噛みついたりすると言われています。

シャチの体長は6メートル近くにもなると言われます。建物の1階分高さが約3メートルなので、大型の鯨ほどではないにしてもシャチの体の大きさが分かります。

他の歯クジラや髭クジラ同様、シャチも季節によって出没する時期の違いが見られる事があり、季節による魚の群れの移動に連動している事が多いようです。例えばイギリス北~アイスランドの海ではシャチは夏場に、ノルウェー付近では冬から5月くらいにかけてよく見られると言われ、その時期はシャチが食べる魚のニシンがそれらの海域に集まる時期と連動しています。

マッコウクジラ

マッコウクジラ(抹香鯨、古くは真甲鯨とも)は世界中の海にいるとされる鯨です。比較的移動量が少ないとされている鯨で、1年間の移動距離は雄で1400km、雌で600kmほどという報告があります。(東京~那覇までが約1500km。髭クジラのザトウクジラは1ヶ月で同距離程度を移動するとも言われる。)

マッコウクジラの1種だけで科と属を構成します。(マッコウクジラ科マッコウクジラ属)

歯クジラの中で大型の「鯨」はマッコウクジラとアカボウクジラ科の鯨だけで、一般的な「鯨のイメージ」に合うのはマッコウクジラだけと思われます。他のザトウクジラやシロナガスクジラなどの「鯨」は髭クジラになります。

マッコウクジラの体長は20メートル近くにもなると言われ、これは建物で言うとおおよそ6階建てほどの高さにも相当します。

温帯~熱帯の外洋性の歯クジラ

大体北緯40度~南緯30度(※)あたりの温帯・熱帯の沖に広く住むものにはマイルカ科では日本語名で「ゴンドウ」と総称される比較的大型で外洋性のやや大型のイルカが存在します。頭の部分(「メロン」)が前に出ていてクチバシがあまり目立たないのが特徴です。

またコマッコウ科の2種や、アカボウクジラ科21種のうちの半数以上も温帯から熱帯にかけての沖で見られる種です。コマッコウやアカボウクジラは、イルカとしてはやや大型、鯨としてはやや小型という感じで見た目がイルカとも鯨とも断定しがたい種類のものも含まれます。

  • ゴンドウ(巨頭)4属5種【マイルカ科】
  • コマッコウ(小抹香)科コマッコウ属(2種)
  • アカボウクジラ科21種のうち12種ほど

(※)日本の秋田・青森の境辺りが北緯40度、屋久島が北緯30度。南アフリカやオーストラリア南部がおおよそ南緯30度。

スジイルカやハンドウイルカなどのマイルカ科のイルカや、ネズミイルカ科のイルカも沖にいる事もありますが、それらの種類はどちらかというと沿岸付近にもよく現れると言われています。

「ゴンドウ(巨頭)」4属5種

「ゴンドウ(巨頭)」と総称されるイルカとも鯨とも違うような歯クジラの一群がいて、マイルカ科の中で4つの属に分けられています。

オキゴンドウ(沖巨頭)はその1つで「シャチモドキ(false killer whale)」とも呼ばれます。シャチと似た大きさで性格も似ていて他のイルカを襲い、しかし色合いは全身が黒色に近くシャチとの区別がつきます。

日本(関西や沖縄など)やハワイでも見られますがインド洋やペルシャ湾、メキシコ湾など幅広く見られます。沿岸にも出没するが基本的には外洋性で、普通は沖合いに住むようです。

大西洋や地中海にもいるが比較的少ないとも言われます。現代においてもまだ調査がそれほど進められている種類のイルカではないそうです。

  • オキゴンドウ属1種
  • カズハゴンドウ属1種
  • ハナゴンドウ属1種
  • ユメゴンドウ属1種
  • ゴンドウクジラ(巨頭鯨)属2種
和名英名学名生息地域等
オキゴンドウ
(沖巨頭)
False killer whalePseudorca crassiden温帯と熱帯の海域
(稀にその他の海域にも)
5.5m 2000kg
カズハゴンドウ
(数歯巨頭)
Melon-headed whalePeponocephala electra熱帯の海域
2.2m 160kg~300kg
ハナハゴンドウ
(花巨頭)
Risso’s dolphinGrampus griseus温帯と熱帯の海域
4m 400kg
ユメゴンドウ
(夢巨頭)
Pygmy killer whaleFeresa attenuata温帯・亜熱帯の海全域
2.3m 170kg
ヒレナガゴンドウ
Long-finned pilot whaleGlobicephala melas北大西洋の温帯海域と
南半球の海全域
5~6m 1800~3500kg
コビレゴンドウShort-finned pilot whaleGlobicephala macrorhynchus温帯と熱帯の海全域
3.5~5.5m 1300~2500kg

コマッコウ科2属2種

科のレベルでマッコウクジラと区別されているコマッコウ科(小抹香)には2種が存在します。(それぞれ1種で1属を構成。)基本的には外洋性で、沖で見られると言われます。

英名ではコマッコウは Pygmy sperm whale つまり「鯨」と呼んでいるのですがサイズ的にはイルカに近く、小型のイルカよりはやや大きいものの、シャチや沖ゴンドウに比べれば体格は小さいのです。和名で明らかに「抹香鯨」を意識しながら「鯨」を省いているのはそういった事も関連しているのかと推測されます。

また、コマコッコウ科の2種は抹香鯨と違って冷たい水の海域にはあまり見られないと言われています。

和名英名学名生息地域等
コマッコウ(小抹香)Pygmy sperm whaleKogia breviceps温帯~熱帯の海域の沖
3~4m 500kg 
オガワコマッコウ(真海豚)Dwarf sperm whaleKogia sima温帯~熱帯の海域の沖
2.8m 350kg
 

アカボウクジラ(温帯に生息するもの)

アカボウクジラ(赤坊鯨 beaked whale)は見た目も大きさも「鯨とイルカの中間」といった感じで、体長は4m以上にもなるが10mは越えない範囲。21種が存在し、色合い的に薄い赤~茶のものもいますが白~灰・黒っぽい色合いのものもいます。

アカボウクジラ科は20種以上で構成されますが、半数以上ほどは比較的温暖な地域の海に住むと言われています。アカボウクジラは多くが外洋性で、まだ調査が進んでいないものも現代でも依然として多く、特にオウギハクジラ属(扇歯鯨属)に含まれる種類には詳細が不明なものが多いとされます。

ここでは、比較的温暖な海域を好むとされる4属のアカボウクジラを挙げます。(残りは後述。)上述のように単純な見た目としては「鯨」よりもイルカに似ているものも少なからずいます。

  • トックリクジラ属2種
  • タイヘイヨウアカボウモドキ属1種
  • アカボウクジラ属1種
  • オウギハクジラ属14種のうち9種
和名英名学名生息地域等
キタトックリクジラ
(北とっくり鯨)
Northern bottlenose whaleHyperoodon ampullatus北大西洋に広く分布(夏季はさらに北上する事も)
7~9m 10000kg
ミナミトックリクジラ
(南とっくり鯨)
Southern bottlenose whaleHyperoodon planifrons南半球の温暖な海域
7m 6000kg
タイヘイヨウアカボウモドキ
(太平洋赤坊もどき)
Longman’s beaked whaleIndopacetus pacificus太平洋南西部~インド洋の熱帯の海域(調査はあまり進んでいない。)
6.5m
アカボウクジラ
(赤坊鯨)
Cuvier’s beaked whaleZiphius cavirostris高緯度を除く海の全域(地中海含む)
7m 5600kg
アカボウモドキ
(赤坊もどき)
True’s beaked whaleMesoplodon mirus大西洋の温帯の海域
5m 3200kg
イチョウハクジラ
(銀杏歯鯨)
Ginkgo-toothed beaked whaleMesoplodon ginkgodensスリランカ~日本~合衆国カリフォルニアにかけての温暖な海域
5.2m 3600kg
ヒガシアメリカオウギハクジラ
(東アメリカ扇歯鯨)
Gervais’ beaked whaleMesoplodon europaeusメキシコ湾・カリブ海~大西洋西部など(温暖な海域の深い場所を好むとされる)
6.7m 5600kg 黒っぽい
コブハクジラ
(瘤歯鯨)
Blainville’s beaked whaleMesoplodon densirostris太平洋・大西洋の温帯~熱帯の海域
5.2m 3600kg
ニュージーランドオウギハクジラ Hector’s beaked whaleMesoplodon hectori南半球の温暖な海域全般
3.7m 2000kg
ペリンオウギハクジラ Perrin’s beaked whaleMesoplodon perrini合衆国西海岸(カリフォルニア)付近
4m 白~黒の色合い、ニュージーランド扇歯鯨に似る
ハッブスオウギハクジラHubbs’ beaked whale/Arch beaked whaleMesoplodon carlhubbsi太平洋の北緯30度~50度の範囲の海域
5m 3400kg
トラバースオウギハクジラ Spade-toothed whaleMesoplodon traversiiニュージーランド~チリに至る海域
4.5m 黒~灰色
ピグミーオウギハクジラ Pygmy beaked whaleMesoplodon peruvianusニュージーランド~チリに至る海域
4.5m 黒~灰色

比較的小型の外洋性のイルカ

体長2m程度の歯鯨の中では小型のイルカで、温帯~熱帯に住む外洋性の種類としてはセミイルカ属、サラワクイルカ属などがいます。これらはシャチやオキゴンドウなどと同じくマイルカ科のイルカです。

  • セミイルカ属2種のうち1種
  • シワハイルカ1属1種
  • サラワクイルカ1属1種

これらの他に、沿岸で主に生息するイルカの種類であっても一部沖で見られる場合もあります。

和名英名学名生息地域等
セミイルカ(背美海豚)Northern right whale dolphinLissodelphis borealis太平洋温帯の沖(稀に沿岸にも)
2.1m 70kg 
サラワクイルカ
(Sarawak 海豚)
Fraser’s dolphin/Sarawak dolphinLagenodelphis hosei温帯~熱帯の海全域(外洋性で沿岸にはあまり見られない) 2.3m 90kg
シワハイルカ
(皺歯海豚)
Rough-toothed dolphinSteno bredanensis温帯~熱帯の海全域(南緯30°~北緯40°くらい。主に沖) 2.4m 140kg

セミイルカ属セミイルカ(Northern right whale dolphin)

セミイルカ(背美海豚)は今の所、太平洋の沖でしか観測されていないイルカです。

髭クジラで「背美鯨(right whale)」と呼ばれるものがいて、セミイルカはそれとの類似性から付けられた名称かと思いますがと大型の鯨と比べるとセミイルカはずっと小型です。

セミイルカ属には2種がいて、日本国内でも確認されているのは「セミイルカ属セミイルカ」になります。もう1つのシロハラセミイルカは青と白の色合いが特徴的ですが南半球に生息しています。

サラワクイルカ属

「サラワク」とは ボルネオ島北西部にあるマレーシアの州サラワク(英語表記:Sarawak)の事。(ボルネオ島は北部マレーシア、残りはインドネシア。)「サラワクイルカ」は実際ボルネオ周辺にも生息しますがそこだけではなくオーストラリアや南アフリカの付近でも見られ、現在では大西洋も含めて温帯~熱帯の海に広く存在すると考えられているようです。

ただしサラワクイルカは「外洋性」のイルカであり沿岸付近にはあまり姿を現さず、日本近辺では稀にしか見られないと言われます。サラワクイルカ属は、サラワクイルカ1種で構成されています。

シワハイルカ属

「シワハイルカ(皺歯海豚)」は歯の見た目に特徴があると言われるイルカです。根本的に他の歯クジラと異なるかというと微妙ですが実際に細かい筋のような模様が歯に見られるようです。全体的に灰色で白い斑点が体の側面にあるのが特徴。

動きは他のイルカに比べるとゆっくりだと言われます。このイルカは日本付近の沖でも比較的見られるようです。シワハイルカ1種で1つの属を構成します。

温帯~熱帯の沿岸性の歯クジラ

温帯から熱帯にかけて比較的沿岸の海域で多く見られる種類としてはマイルカ科のいくつかの属のものと、ネズミイルカ科のイルカがいます。

  • スジイルカ属(マイルカ科)
  • ハンドウイルカ(マイルカ科)
  • マイルカ(マイルカ科)
  • ウスイロイルカ属(マイルカ科)
  • ネズミイルカ科の数種
  • 河川に住むイルカの一部が沿岸の海にも住む

スジイルカ属:太平洋~大西洋

スジイルカ(striped dolphin)は5種ほどがいて、灰色などの色合いが独特の小型~中型のイルカです。英名に表れている「ストライプ」(stripe)というのは「筋(すじ)」とも言えますがシマウマなどの「縞(しま)」の事でもあります。

スジイルカ属のイルカはおおむね、温かい地域の海に広く分布しています。このうち2種は温帯~熱帯の海域に広く分布しており、残り3種は太平洋や大西洋などにやや偏って分布しています。全体で見ると、どちらかというと大西洋側に多く見られるイルカの属と言えるかもしれません。沖にも見られるが、やや沿岸付近を好むとも言われます。

和名英名学名生息地域等
スジイルカ(筋海豚)Striped dolphinStenella coeruleoalba温帯~熱帯の海域2.4m 100kg 
ハシナガイルカ
(嘴長海豚)
Spinner dolphinStenella longirostris熱帯の海域(主に大西洋だが他の海域も)
1.8m 75kg 
「嘴」は「クチバシ」
クライメンイルカClymene dolphinStenella clymene温帯~熱帯の北大西洋(ギニア湾~メキシコ湾・合衆国東海岸)2m 80kg 
マダライルカ(斑海豚)Bridled dolphin/Pantropical spotted dolphinStenella attenuata温帯の海域(特に太平洋と大西洋)(※)2.2m 160kg~300kg 
タイセイヨウマダライルカ
(大西洋斑海豚)
Atlantic spotted dolphinStenella frontalis熱帯の海域(主に大西洋だが他の海域も)
1.8m 75kg

マイルカ属とハンドウイルカ属

ハンドウイルカは一般的な「イルカのイメージ」のイルカであるとされていて、バンドウイルカとも呼ばれたりします。

科の名前にも代表されているマイルカですが、属以下の分類だと「クチバシが長い(ハセイルカ)か短いか」で種を分ける説が1990年代に広く受け入れられたものの、最近になってやはり1種にまとめるべきという説が有力視されているなど分類の混乱が見られる属です。ここではマイルカ属マイルカだけを挙げておきます。

ハンドウイルカとマイルカのいずれも沿岸に住む事の多い種で人目に付く事も多く、日本や合衆国の沿岸でも見られるイルカです。(沖で見られる事もあるとされます。)

  • ハンドウイルカ属2種のうち1種
  • マイルカ科マイルカ属(ここではマイルカ1種のみを挙げる)
和名英名学名生息地域等
ハンドウイルカ/バンドウイルカ(半道海豚/坂東海豚)
【ハンドウイルカ属】
Bottlenose dolphinTursiops truncatus温帯~熱帯の沿岸
3~4m 150~200kg 
マイルカ
(真海豚)
【マイルカ属】
Common dolphinDelphinus delphis温帯~熱帯の地域の沿岸(黒海や地中海含む)
2.2m 85kg
【マイルカ属】 

ウスイロイルカ属【薄色海豚】など

赤道近くのアフリカ西海岸と、マダガスカル付近から始まるアフリカ東海岸から紅海・ペルシャ湾・インド・ベンガル湾を経て東南アジアに至る沿岸などに住むイルカとして「ウスイロイルカ(薄色海豚)属」に属するイルカがいます。

従来3種が知られていましたが比較的最近(2014年)1種が付け加わり4種となっています。

ウスイロイルカ属の4種は見た目の違いも少しありますが
「アフリカ東海岸~東南アジア西部までの沿岸」
「バングラデシュ~東南アジア・中国南部までの沿岸」
「アフリカの西海岸」
に住むという生息地域の違いがあります。(アフリカ東海岸~東南アジアに住むものを1つの種と考えて両者を亜種での区別とする説もあります。)

また、ハンドウイルカの仲間のミナミハンドウイルカ(ハンドウイルカ属)も東アフリカから東南アジアの岸に沿った沿岸付近で見られ、ウスイロイルカと生息分布が似ています。ミナミハンドウイルカは日本でも見られる種です。

和名英名学名生息地域等
シナウスイロイルカ(シナ薄色海豚)Indo-Pacific humpback dolphinSousa chinensisバングラデシュ~中国南部・インドネシア・フィリピン・台湾沿岸など2m 85kg 薄いピンク
ウスイロイルカ(薄色海豚)Indian humpback dolphinSousa plumbeaアフリカ東海岸全域・紅海・ペルシャ湾・バングラデシュ~ミャンマー付近の沿岸など
アフリカウスイロイルカ(アフリカ薄色海豚)Atlantic humpback dolphinSousa teusziiisidii西アフリカの西サハラ~アンゴラの沿岸など・一部は河川にも 1.2m 45kg
オーストラリアウスイロイルカAustralian humpback dolphinSousa sahulensisオーストラリア北部・パプアニューギニア南部沿岸付近 2.75m 薄灰色
ミナミハンドウイル(南半道海豚)【ハンドウイルカ属】Indo-Pacific bottlenose dolphinTursiops aduncusアフリカ東海岸・紅海・ペルシャ湾~東南アジア・日本南部の沿岸
2.7m 230kg

河川に住むイルカの一部等で沿岸にも住むもの

マイルカ科の一部のイルカは河川と沿岸の海の両方で確認されているものがいます。カワゴンドウ属のイルカと、コビトイルカ属のイルカの一部がそれに該当します。これらのイルカは概ね小型の種類です。

また、別の歯クジラの科で「ラプラタカワイルカ」(ラプラタ河海豚)というイルカがいますがこれは川よりもむしろ沿岸に住むと言われていて、ブラジルのリオデジャネイロ付近からアルゼンチンのバルデス半島付近の沿岸の海に生息しています。

  • カワゴンドウ属2種(マイルカ科)
  • コビトイルカ属2種のうち1種(マイルカ科)
  • ラプラタカワイルカ(ラプラタカワイルカ科)
和名英名学名生息地域等
カワゴンドウIrrawaddy dolphinOrcaella brevirostris東南アジアの沿岸(ベンガル湾、インドネシア等)・河川 2m 100kg
オーストラリアカワゴンドウAustralian snubfin dolphinOrcaella heinsohniオーストラリア北部(~一部東部や河川)・パプアニューギニア南部の沿岸
ギアナコビトイルカGuiana dolphinSotalia guianensisニカラグア~ブラジルにかけての沿岸部、カリブ海の一部の島の付近、南米北東部の河川 1.5m 40kg 薄い灰色
(コビトイルカ)TucuxiSotalia fluviatilis(アマゾン川)
ラプラタカワイルカ【ラプラタカワイルカ科】La Plata dolphin/FranciscanaPontoporia blainvilleiブラジルのリオデジャネイロ付近~アルゼンチンのバルデス半島にかけての沿岸
1.5~1.7m 30~50kg濃い灰色~黒

カワゴンドウ属

カワゴンドウ属の2種のイルカは東南アジアからオーストラリア北部の沿岸で見られ、和名では「河巨頭」と呼んでいるように河川にも住みます。あるいは、沿岸の海においても淡水と海水が混じる場所にいるとも言われる。いずれにしても東南アジア~オセアニアの比較的暖かい地域に見られるイルカという事になります。

以前は東南アジアとオーストラリア北部にいるものは1つの種として考えられていましたが、最近(2005年以降)では東南アジアに分布するものとオーストラリア北部にいるものを同属の別々の種と考える事が多くなっています。

オキゴンドウ等とは違って体格的には小型のイルカと大体同じ。口先が尖っておらず頭を含めて丸っこく、見た目は愛嬌のある顔をしています。

ギアナコビトイルカ(コビトイルカ属)

アマゾンの河川に住むコビトイルカ属のイルカは一部が南米東の沿岸にもいる事が知られていました。そしてそれらのうち海にもいる事があるものは「ギアナコビトイルカ(Guiana dolphin)」と呼ばれるようになり、河川にだけいる種(コビトイルカ、Tucuxi)と別種と考えられるようになりました。

ネズミイルカ科のイルカ

ネズミイルカ(porpoise)科のイルカはマイルカ科の小型のものよりもさらに一回り小さく、体長が2mを超えないものが少なくありません。7種のそれぞれはどれも基本的には沿岸付近でよく見られますが、生息地域の特性があります。

多くは温帯の地域に生息しますが、一部はやや冷涼な場所にも住みます。

瀬戸内海などに住む「スナメリ(砂滑)」はネズミイルカ科のイルカです。また、日本の東北地方で「リクゼンイルカ」と呼ばれるものはイシイルカの仲間になります。

  • ネズミイルカ属3種(ネズミイルカ、コガシラネズミイルカ、コハリイルカ)
  • スナメリ属1種
  • イシイルカ属(ここでは1種のみ挙げる)
  • (メガネイルカ属はネズミイルカ科のうち、やや冷涼な地域にいる)
和名英名学名生息地域など
ネズミイルカ
(鼠海豚)
Harbour porpoisePhocoena phocoena温帯の北太平洋、北大西洋、地中海、黒海など。(一部はベーリング海などにも)
1.5~1.9m 50~65kg
コガシラネズミイルカ
(小頭鼠鯆)
Gulf of California porpoise/VaquitaPhocoena sinusカリフォルニア湾
1.2~1.5m 30~55kg
目の周りが少し特徴的
コハリイルカ
(小針海豚)
Burmeister’s porpoisePhocoena spinipinnisチリ~アルゼンチン・ウルグアイの沿岸
1.4~1.8m 40~70kg 黒い
スナメリ
(砂滑)
Finless porpoiseNeophocaena asiaeorientalisイラン~日本の沿岸、ニューギニアなど(浅い海に住む)
1.4~1.6m 30~45kg
背びれがない
イシイルカ Dall’s porpoisePhocoenoides dalli日本~ベーリング海~カリフォルニア南部までの沿岸(深い海を好む)
1.7~2.2m 130~160kg
黒く、腹部と尾びれだけ白い
(メガネイルカ)
【やや冷涼な海域に住む】
Spectacled porpoisePhocoena dioptrica南米フォークランド諸島付近
1.5~2m 60~80kg

高緯度や冷涼な海に住む歯クジラ

比較的水温が低い海域や、高緯度(※)の海域で暮らす歯クジラも存在します。

(※)参考までに、南米の南端やフォークランド諸島はおおよそ南緯50度で、樺太の中部・カムチャッカ半島の南部・アメリカとカナダの国境付近・イギリス海峡付近は北緯50度です。

イッカク科の2種やアカボウクジラ科の一部の他、マイルカ科ではイロワケイルカ属、カマイルカ属のイルカが主に該当します。

ネズミイルカ科では前述のイシイルカの一部がベーリング海などの冷涼な海で見られる事もあります。また、同じく前述の世界の海に広く生息するシャチやマッコウクジラも冷涼な海域にいる事のある歯クジラの種類という事になります。

イッカクとベルーガ(シロイルカ)

イッカク科には「イッカク」と、シロイルカとも呼ばれるベルーガの2種がいます。(イッカク科には2属がありますがいずれも1種のみで構成されています。イッカク属とシロイルカ属。)これらの2種は体長5メートル近くにもなり、「イルカ」としては大型です。

いずれも北極海付近の海に住んでいますが、ベルーガはユーラシア大陸北部(バレンツ海~東シベリア海にかけて)、アラスカ北部、カナダ北東部の北極海諸島周辺やハドソン湾などで暮らしています。主に沿岸で見られ、河口付近や湾の近くを好むとも言われます。また、冬季になるとグリーンランド付近の海やベーリング海、オホーツク海などに移動するとも言われます。

他方でイッカクの分布はベルーガと重なる部分もありますが少し異なっているようで、主にバレンツ海付近やハドソン湾北部・北極海諸島付近に住んでいて、冬季になるとグリーンランドの西部(デーヴィス海峡)や東部に移動するとされます。イッカクの生息分布は北極の氷の分布に影響されるとも言われます。

イッカクはユニコーンのような長い「角」を持ちますが、体の組織的には「牙」であると言われています。

和名英名学名生息地域等
イッカク
(一角)
NawhalMonodon monocerosバレンツ海・ハドソン湾・北極海諸島(カナダ)~冬季にはグリーンランド付近
4~5.5m 800~1600kg
シロイルカ
(白海豚、ベルーガ)
White whale/BelugaDelphinapterus leucasバレンツ海~東シベリア海、
ボーフォート海(アラスカ北部)、北極海諸島付近、ハドソン湾~冬季にはグリーンランド周辺、ベーリング海・オホーツク海の一部
4~5.5m 500~1500kg

亜寒帯や高緯度の海のアカボウクジラ

アカボウクジラ21種のうち半数以上は比較的温暖な海域に住むとされますが、残りのものは高緯度の海域に住んだり南極方面に移動したりするものがいます。

  • ツチクジラ属2種
  • タスマニアクジラ属1種
  • オウギハクジラ属14種のうち5種

これらのアカボウクジラ科の歯クジラも基本的に外洋性です。

和名英名学名生息地域等
ツチクジラ
(槌鯨属)
Baird’s beaked whaleBerardius bairdii北太平洋の北緯30度~ベーリング海、オホーツク海など(一部は合衆国カリフォルニア付近にも)深く潜る
12~13m 13500kg
ミナミツチクジラ
(南槌鯨属)
Arnoux’s beaked whaleBerardius arnuxii南緯30度以上~南極海までの海域
9~9.8m 約10000kg
タスマニアクジラ Shepherd’s beaked whaleTasmacetus shepherdiオーストラリア南部・ニュージーランド付近~南極海
6.6m 5600kg
ヨーロッパオウギハクジラSowerby’s beaked whaleMesoplodon bidens大西洋北部(北緯50度以北と考えられるが調査はあまり進んでいない。)
5m 3400kg
オウギハクジラ
(扇歯鯨)
Stejneger’s beaked whale/Bering Sea beaked whaleMesoplodon stejnegeri太平洋の北緯40度以北~ベーリング海など
6m 4800kg
ヒモハクジラ
(紐歯鯨)
Strap-toothed whaleMesoplodon layardii南緯30度~南極海の比較的低温の海域を周回すると見られる
5m 3400lg黒+白の色合い
タイヘイヨウオウギハクジラ
(太平洋扇歯鯨)
Andrews’ beaked whaleMesoplodon bowdoini南緯30°~50°辺りの海域に住むらしいが詳細がまだ分かっていない
4~5m 2600kg 全体的に灰色
ミナミオウギハクジラ
(南扇歯鯨)
Gray’s beaked whaleMesoplodon grayiアフリカ・オーストラリア・南米の南部~南極付近を周回
6m 4800kg クチバシだけ白く、残りは黒っぽい

イロワケイルカ属(4種)

次の4種はマイルカ科の「イロワケイルカ属」です。(この4種で属を構成。)マイルカ科の小型のイルカで、沿岸性のものが含まれる。いずれも日本近辺の海には生息していません。

和名英名学名生息地域等
イロワケイルカ
(色分海豚)
Commerson’s dolphinCephalorhynchus commersonii南米フォークランド諸島など1.3m 50kg
黒い部分より白い部分のほうが広い
ハラジロイルカ(腹白海豚)White-bellied dolphin/Black dolphinCephalorhynchus eutropiaチリの沿岸付近など 1.2m 45kg
普通のイルカに似る
コシャチイルカ
(小鯱海豚)
Heaviside’s dolphinCephalorhynchus heavisidii南アフリカ・ナミビア沿岸等1.2m 40kg
黒い体に白模様
セッパリイルカ
(背張海豚)
Hector’s dolphinCephalorhynchus hectoriニュージーランド周辺 1.4m 40kg
薄い灰色~白に黒模様

カマイルカ属

マイルカ科のカマイルカ属のイルカのうち「カマイルカ属カマイルカ」の種は太平洋で生活し、日本でも見られます。

和名英名学名生息地域等
ハラジロカマイルカ
(腹白鎌海豚)
Dusky dolphinLagenorhynchus obscurusチリ・アルゼンチン・南アフリカ・オーストラリア南部・ニュージーランドの沿岸・インド洋や大西洋の南部の諸島など
1.8kg 115kg
東西の南米・アフリカ・オセアニアの4地域に住むのは各々異なる亜種
ダンダラカマイルカ(段だら?※)Hour-glass dolphinLagenorhynchus cruciger南極寒流の北部全域(主に暖流とぶつかり合う場所付近と言われる)1.6m 100kg 黒と白の色合いが不思議
ミナミカマイルカPeale’s dolphinLagenorhynchus australisアルゼンチン・チリ・フォークランド諸島周辺(主に低水温の海域)2m 115kg
カマイルカ
(鎌海豚)
Pacific white-sided dolphinLagenorhynchus obliquidens北緯20~60度付近の海。中国・日本~北米カリフォルニア半島までの沿岸と沖合(ベーリング海にはあまりいない)
2m 90kg
タイセイヨウカマイルカ
(大西洋鎌海豚)
Atlantic white-sided dolphinLagenorhynchus acutusカナダ東海岸・グリーンランド~イギリス・ノルウェー・スヴァーバル諸島にかけての北大西洋沿岸・沖合 2.5m 215kg

※段がいくつもある事を「段だら」と表現する事があります。段々。

その他

太平洋沖に住むセミクジラの仲間のシロハラセミイルカ(セミクジラ属)は南の海のかなり高緯度の場所でのみ見られるイルカです。オーストラリア南部や南アフリカの沖などから南極寒流付近を周回しているのではないかと見られています。

また、前述のネズミイルカ科の多くは温帯の海に生息しますが一部はやや冷涼な地域にも住みます。

  • シロハラセミイルカ【マイルカ科セミイルカ属】
  • イシイルカ【ネズミイルカ科】一部はベーリング海付近で見られる
  • メガネイルカ【ネズミイルカ科】フォークランド諸島付近に住む
  • コハリイルカ【ネズミイルカ科】一部は南米の南端付近にも住む
和名英名学名生息地域等
シロハラセミイルカ(白腹背美海豚)Southern right whale dolphinLissodelphis peronii南米の南部・南アフリカ・オーストラリア南部の沖~南極海付近
3m 110kg(※もっと小さいという報告もあり) 
メガネイルカ
【ネズミイルカ科】
Spectacled porpoisePhocoena dioptrica南米フォークランド諸島付近
1.5~2m 60~80kg

淡水の河川に住むイルカ

淡水の河川に住むイルカは総称して「カワイルカ(河海豚)」と呼ばれますが、多くのものは住んでいる世界の地域ごとに「科」のレベルで分かれている事が普通です。

  • ガンジスカワイルカ科:2属2種(ガンジスカワイルカとインダスカワイルカ)
  • アマゾンカワイルカ科1属1種
    同じくアマゾン川に住む「コビトイルカ」はマイルカ科のイルカ。)
  • 揚子江カワイルカ科1属1種
  • ラプラタカワイルカ科1属1種(※)

また、前述の沿岸の海に住むマイルカ科のごく一部のイルカ(カワゴンドウ、ギニアコビトイルカ)は河川にも住んでいます。

(※)ラプラタカワイルカは「ラプラタ川」には住んでおらず、ブラジル~アルゼンチンの沿岸の海で見られます。ただし、ラプラタ川というのは川といっても実質的には湾(あるいは大きな三角州)のようになっていて、海から入り込んで来る「ラプラタカワイルカ」も多少はいるのかとは推測されます。

和名英名学名生息地域など
ガンジスカワイルカ Ganges River dolphin/Ganges susuPlatanista gangeticaガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川の河川系(インド・
ネパール・バングラデシュ)
2~2.6m 80~90kg
白~薄灰色、くちばしが長い
インダスカワイルカ Indus river dolphin/Indus susuPlatanista minorパキスタンのインダス川の河川系
2.5m 70~110kg 灰色、くちばしが長い
アマゾンカワイルカAmazon dolphin/Boto(Botou)Inia geoffrensisアマゾン川・オリノコ川の河川系
2~2.5m 80~130kg 白~薄ピンク
(ラプラタカワイルカ)【河川にあまり住んでいない】La Plata dolphin/FranciscanaPontoporia blainvillei(ブラジル~アルゼンチンの沿岸)
1.5~1.7m 30~50kg濃い灰色~黒
ヨウスコウカワイルカ
(揚子江河海豚)
White fin dolphin/BaijiLipotes vexillifer中国の揚子江
2.2~2.5m 130~230kg白~薄灰色
コビトイルカ
(小人海豚)
【マイルカ科】
TucuxiSotalia fluviatilisブラジル~コロンビア・
エクアドル・ペルーにかけてのアマゾン・オリノコ川の河川系
1.4m 30~40kg 薄い灰色
ギアナコビトイルカ
【マイルカ科】
Guiana dolphinSotalia guianensisアマゾン川の河川系など(南米北東部)と中南米~ブラジルの沿岸の海 1.5m 40kg
カワゴンドウ
(河巨頭)
【マイルカ科】
Irrawaddy dolphinOrcaella brevirostrisエヤワディ川(ミャンマー)、
メコン川
(ベトナム・カンボジア等)、
マハカム川(インドネシアのボルネオ島東部)、
チリカ湖(インド東部)、
ソンクラー湖(タイ南部)等
・東南アジアの沿岸 2m 100kg
オーストラリアカワゴンドウ
【マイルカ科】
Australian snubfin dolphinOrcaella heinsohniオーストラリア北部(~一部東部や河川)・パプアニューギニア南部の沿岸

河川に住むイルカの一部はダム建設などによって過去よりも生息場所が減りつつある事が指摘されています。

「同じ穴のむじな」のムジナとは?狸やアライグマとの違い

同じ穴のむじな」ということわざがあります。これはやや批判的な意味を込めて「一見違うようでも同類である事」という意味ですが、そもそもムジナとは何でしょうか。実はある動物の事なのですが、一体どういう動物なのでしょうか。

  1. ムジナ(アナグマ)の特徴
  2. 言葉における「むじな(アナグマ)」と「狸」
  3. 「アナグマ」の仲間達:生息地域と生物学的分類
  4. 狸とはどういう動物か?

ムジナ(アナグマ)の特徴

ムジナという動物

ムジナとは一応日本語であり、漢字で書くと見慣れない字ですが「狢」あるいは「貉」と書きます。別称として、ややマイナーですが「ササグマ(笹熊)」「マミ(猯)」「アナホリ」「モジナ」などと呼ばれる事もあります。

猯(「まみ」)という名称に関しては同音で魔物の類の意味の「魔魅」という語が『太平記』などに見られるようですが、ムジナを指す「猯」との意味的な関連があるのかは定かではありません。

生物学的にはムジナとは、日本語でアナグマ(穴熊)と呼ばれる動物です。つまりムジナとはアナグマの事になります。(後述しますが実は「狸」とは生物学的には異なる哺乳類なのです。)

外見的な特徴

ムジナことアナグマは日本だけでなく世界に仲間がいますが、例えばヨーロッパのものは次のような外見をしています。

pixabay.com より ユーラシアアナグマ(ヨーロッパアナグマ)

※この記事で参考のために使われている pixabay.com の画像等はpixabay.com の利用規約により使用許可を得ています。

アナグマの大きさは種類によって差がありますが体長は50cmから100cmほどで、体重は小さいもので約5kg、大きいもので12~13kgほどと言われるので犬に近い大きさと言えそうです。(柴犬などの中型犬の体重が大体10~12kg。)アナグマの体高はおおよそ人の大人の膝よりも低い事が多く、胴長で足が比較的短い体型です。

ヨーロッパアナグマは顔の部分が白い毛に目から耳にかけての部分だけ黒いのが特徴的ですが、日本に住むニホンアナグマは目の周りだけが黒くて頭部も含めて全体的に茶色の毛である事が多いようです。しかし個体差があって、日本アナグマでも目の周りの黒い部分がヨーロッパアナグマに似るものもいる。

アメリカ大陸のアナグマは顔つきがまだ異っており、鼻先全体が黒いものがいます。アフリカに住むミツアナグマ(honey badger)は体の上半分が白っぽく下半分が黒い外見でありスカンクに似た見た目をしています(※)。また、東南アジア等に住むブタバナアナグマは鼻先が長く、イタチアナグマは体重2kgほどの小型の動物です。

(※後述するように、アメリカアナグマやアフリカ等のミツアナグマは、最近ではアジアやヨーロッパのアナグマの近縁の別系統であるとする説もあります。東南アジアに住むスカンクアナグマは習性的にもスカンクに似ていて、これは現在アナグマとは別扱いでスカンク科の動物としています。)

日本には野生のニホンアナグマが生息しています。動物園で飼育されている事もあります。

ムジナ(=アナグマ)が属する系統【タヌキとの区別】

さてムジナを見て「これはタヌキではないのですか?」と思う人もいるかもしれません。ムジナことアナグマは、狸とは違うのでしょうか。それとも生物学的には同じ生き物なのでしょうか。

アナグマと狸は生物学的には異なる動物になります。

しかし両者は一体何が違うのでしょうか。どちらも似た動物ではあるのですが、詳しく調べるとアナグマはイタチ科に属していて、狸はイヌ科の動物であると言われています。(アナグマは漢字で「穴熊」と書きますが熊の仲間でも無いわけです。)

ところで狐はもちろんイヌ科の動物ですから分類上は科のレベルでは狸と同じという事になり、狸と狐は意外にも生物学的には比較的近縁の種であるとも言えそうです。

生物学での見解によれば、タヌキはイヌ科なのでムジナやアライグマと比較するとむしろキツネのほうが近い親戚関係にある。

アナグマが属しているイタチ科の動物にはカワウソやラッコ、ウルヴァリン、テン、ミンクなどが含まれます。昔はスカンクもイタチ科に含めて考えられていましたが、現在では独立したスカンク科が提唱されています。

また、後述するようにアナグマと狸は生息する地域にも違いがあります。習性は似ている所もありますが微妙に違う部分も存在します。

日本にはハクビシンという動物もいますが、それはまたムジナともタヌキとも異なる動物です。しかし見た目が似ているので混同しやすいようです。ハクビシンはジャコウネコ科というグループに分類されています。

アナグマの習性:本当に「穴」に住む

「同じ穴のむじな」と言いますが、ムジナことアナグマの前足には鋭い爪があって穴掘りが得意で森や林の中で少し深めの複雑な構造の巣穴を作ると言われています。

人家の近くに巣穴を作ってしまい、獣害的な問題になってしまう事もあるのだとか。アナグマによる獣害としては農作物を食べて荒らすとか、人家に侵入するといった事があるようです。穴を掘って下からやってくるので対処が難しい事もあるとか。

日本国内で国土交通省と民間企業のチームが九州で行った1つの調査研究によると、ある河川敷の堤防には集中して10個ほどのアナグマの巣が見つかったとの事。重機で斜面を掘って内部構造を直接調べたとの事です。その調査によると、巣穴はおおよそ1メートルから5メートルの長さであり、直線状のもの、途中で折れ曲がっているもの、横に分岐が見られるものがあったとの事です。

国土交通省九州地方整備局等による調査結果をもとに作成したアナグマの穴の構造の推測図。

■参考外部サイト:
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策(Nature of Kagoshima)

同じ穴に実際に複数のアナグマが暮らしている事もあり、さらには使われなくなった巣穴を代わりに狐や狸が利用する事もあると言われます。

同じ穴にアナグマと狸が同居している事もあると言われ、そこから「同じ穴のむじな=一見異なるようだが似たようなもの」ということわざが使われるようになったのではないかと見る説もあります。

穴掘りが得意な反面、木登りなどは上手ではなく、走る事も犬などと比べると得意ではないようです。アナグマは一般的に視力が悪く夜行性ですがヨーロッパのアナグマは昼間でも活動する事があり、嗅覚に優れていて歯や顎が強力である種が多いとされます。

言葉における「むじな(アナグマ)」と「狸」

昔から混同されてきた「ムジナ」と「狸」

アナグマ(=ムジナ)と狸の違いは紛らわしいものですが、実の所、言葉としてはムジナという語がタヌキを指している事もあるようなのです。

岩波書店の広辞苑によるとそれは「混同」によるものだと言います。つまり、本当はタヌキではないのだけれども間違えてタヌキを指してムジナと呼んでしまい、それが半ば日本語の語句の意味として定着してしまっている部分もあるという事でしょう。

混同して、タヌキをムジナと呼ぶこともある。

岩波書店『広辞苑』より

ですから古い文献にムジナという言葉が出てきた時には基本的にはアナグマを指すが、時には狸を指している事もあり得るわけです。

昔話として有名な『かちかち山』ではキャラクターとして「狸」が登場しますが、口承による伝承だとそれをムジナと呼んでいる事もあるようです。昔話の中で元々想定されていたものが本来のムジナ(=アナグマ)だったのか、単なる呼び間違いなのかは定かではありません。

同じ昔話の『文福茶釜』で茶釜に化けていたのは「狸」であるとされます。

言葉としてムジナの別称である「マミ」にも同じ混同があるらしく、基本的にはムジナを指すのであるが狸を指している事もあると言われています。

少し興味深いのは、地名に「狸」という文字が入っていて「むじな」と読むものが日本には一部存在する事です。例えば福島県須賀川市にある「狸森」という地名は「むじなもり」と読まないといけないらしく、他方で同じ福島県のいわき市にある「狸作」という地名は「たぬきさく」と呼ぶことになっています。同じ現象は宮城県の一部などでも見られて、「狸」と書いて「まみ」と読む例もあるようです。狸とムジナの混同が過去にあったのか、それとも敢えて統一的に狸という漢字をあてたのかなどの理由は不明です。

狸汁は「狸の肉」を本当に使っている?

昔の話に出てくることがある「狸汁」というのは元々は文字通り狸の肉を煮込んだ汁を指すと考えられていますが、ムジナことアナグマの肉を使って同じ名前で呼んでいたのではないかとも言われます。文献の記述だけだと「狸汁」に対して実際に何の肉を使っていたのかについては混乱があると言えるでしょう。

一説にはムジナは美味だが狸はまずくて食えないなどとも言われるようですが、その真偽は定かではありません。

ところで肉を使わずにコンニャクなどを入れたものを「狸汁」と呼ぶ事も多いのです。いわゆる精進料理として知られており、狸の肉を使う代わりにコンニャクを入れるようになったという説があります。コンニャクを野菜と一緒にごま油で炒め、味噌汁に入れて煮るなどすると言われます。

尚、カップラーメンでも知られる「狸うどん」や「狸そば」はもちろん狸の肉は使っておらず、天かすやねぎ(関西などでは刻んだ油揚げの事も)を入れたそばやうどんを指します。

ヨーロッパの言葉におけるアナグマ

英語だとアナグマの事は badger 【バジャー】と言い、狸の事は少し聞き慣れない語かもしれませんが raccoon dog 【ラクーン・ドッグ】と言うようです。ちなみに raccoon とはアライグマの事で、生物学的にはイヌ科でもイタチ科でもなくアライグマ科に分類されています。

犬でダックスフントという犬種がいますが、ダックスとはドイツ語でアナグマの事を指すとされていて、フントとはドイツ語で犬の事です(hound「ハウンド」と同じ系統の語)。

ダックスフントは元々アナグマ(=むじな)の狩猟をするのに使われた犬であると言われています。ただし、ペットとして人気のあるミニチュアダックスフントと比較すると元々の狩猟犬としてのダックスフントはもう少し大きい犬です。また、現在はヨーロッパの国々ではアナグマの狩猟は禁止されている事も多いそうです。

「アナグマ」の仲間達:生息地域と生物学的分類

ところで、アナグマは言葉のうえでも混乱がありますが生物学的な分類でも大きな混乱があります。日本の一般民衆はアナグマについて言葉の面で混同をしてきましたが、生物学者もまた、世界のアナグマの分類で大きな混同をしてきたというわけです。

狸とアナグマの違いについては、生物学では旧来からイヌ科とイタチ科の分類で区別されてきました。しかし最近ではアナグマの中で見るとアメリカ大陸に住むアナグマや、アフリカ・アラビア・インドに住むミツアナグマ(ハニーアナグマ)は亜科(subfamily)のレベルで区別すべきであると言われるようになってきています。(※アメリカアナグマやミツアナグマには亜科を考えず、アナグマ亜科とは独立してイタチ科アメリカアナグマ属のように考える事もある。)

さらに、東南アジアに住むスカンクアナグマに至っては科(family)のレベルでスカンク科として考える説が提唱されています。ただし、同じく東南アジアにも住むイタチアナグマなどは亜科のレベルまでニホンアナグマ等と同じであり、属(genus)のレベルで系統的に分かれるとされています。

アメリカ大陸のアメリカアナグマやアフリカ・アラビアのミツアナグマ(ラーテル、ハニーアナグマ)はアナグマ亜科と区別する説も提唱されている。 東アジアにいるものはヨーロッパアナグマの亜種と考えられたが最近では分けて考える説もある。東南アジアに住むスカンクアナグマ属は現在ではスカンク科に分類される事もある。アナグマは日本列島にもいるが北海道にはいないとされる。

生物学的にはイタチ科の中に「アナグマ亜科(subfamily)」「アメリカアナグマ亜科」「ラーテル亜科」があると考えます。
(※あるいは、アナグマ亜科と、それとは独立したアメリカアナグマ属、ラーテル属があると考える。ラーテルとはミツアナグマの事で、アフリカの1つの言語での名前がラーテルらしい。)

次に、アナグマ亜科の中に「アナグマ属」と「ブタバナアナグマ(hog badger)属」「イタチアナグマ(ferret badger)属」の3つがあると考えます。
さらに、「アナグマ属」の中にユーラシアアナグマ・アメリカアナグマ・ニホンアナグマなどの「種」が分かれていると考えます。

日本語でムジナあるいはアナグマ、英語では badger と汎用的に呼んでいる動物は生物学的には「アナグマ属」に属する3種を指していると言ってよいかもしれません。

アナグマ亜科アナグマ属に3種がいる分類は次のようになります。

  • ヨーロッパアナグマ(ユーラシアアナグマ):ヨーロッパに分布
  • アジアアナグマ:中央アジア~東アジア
  • ニホンアナグマ:日本の本州・四国・九州(北海道にはいない)

旧来の分類だと、ヨーロッパアナグマ属に1種と3亜種がいて、日本アナグマはその亜種の1つという位置づけになります。

新しい分類のもとでの「アナグマ」に関する分類をまとめて整理すると次のようになります。イタチ科等には非常に多くの動物種がいますがアナグマに関連するもの以外は省略してあります。

科(family)亜科(subfamily)属(genus)種(species)
イタチ科アナグマ亜科アナグマ属3種 ヨーロッパアナグマ/アジアアナグマ/ニホンアナグマ
ブタバナアナグマ(hog badger)属3種 中国南部・東南アジア等
イタチアナグマ(ferret badger)属6種 インド・中国・台湾・東南アジア等
(アメリカアナグマ亜科)アメリカアナグマ
(American badger)属
1種 アメリカアナグマ
メキシコ~北アメリカ
(ラーテル亜科)ラーテル
(honey badger)属
1種 ミツアナグマ(ラーテル)
アフリカ・アラビア・インド
スカンク科(亜科は考えない)スカンクアナグマ(stink badger)属2種 ジャワスカンクアナグマ(teledu, Malayan/Sunda stink badger)
パラワスカンクアナグマ(Palawan stink badger)
フィリピン・インドネシアの一部など

狸とはどういう動物か?

外観的な特徴

そもそも、狐と比べて狸を見たことがある人が意外と少ないのではないでしょうか。狸は、イラストとして描かれるキャラクターとしては昔話の絵本を筆頭によく見かけるものです。しかし実際には狸がどのような動物なのかは、狐と比較しても画像や映像であっても見る機会は意外に少ないかもしれません。

ちなみに狸の見た目は次のようになります。

pixabay.com より 狸/raccoon dog おそらく外来種としてヨーロッパに生息するもの。

顔立ちがムジナ(=アナグマ)とは少し違うようです。また、アナグマのほうがタヌキよりも脚や尾が太く、全体的にずんぐりした体型であるとも良く言われます。体重は 7~8kg ほどと言われます。日本の本州に住むホンドギツネが4~6kgと言われるので、狐と似たサイズか少しだけ大きいという事になります。

狸も穴に住みますが、前足の爪はアナグマほどには発達していないようです。

狸はイラストのイメージでは「頭に木の葉を置いて化ける」というものが時々使われますが、個体によっては確かに頭の毛の色合いから枯れた木の葉を頭に置いているように見えなくもない場合もあるかもしれません。

狸の習性

狸は冬には冬眠を行います。巣穴に住み、前述のようにアナグマが使わなくなった巣穴を利用したり巣穴をアナグマと共同で使う事もあると言われます。また、雑食性で果物や小動物を食べる事も狸とアナグマで大体似ています。

他方で、少し耳慣れないかもしれませんが狸は「木に登る」事があるという報告もあるようです。

狸が属するイヌ科の動物の多くは猫と違って木登りは不得意そうですが、実は狐は木登りが得意な種類もいる事が知られています。ですので意外にも狸と狐はイヌ科の動物の中では木登りが得意な事もあるという共通点があるわけです。

狸はアジアとヨーロッパに生息していますが、ヨーロッパに住むものはアジアから持ち込まれたものが広がったのではないかという見方が強いとされます。アナグマが、狭義のアナグマ属に限定してもヨーローッパからアジアに広く分布するのに対して、狸はどっちかというと東アジアを中心として分布する動物と言えそうです。また、日本に住むものに関しては本州・九州・四国・北海道に生息すると言われています。(日本アナグマは北海道にはいない。また沖縄にはアナグマ・狸・狐とも野生種は確認されていないとされています。)

狸は北海道にも生息するとされていて、ニホンアナグマは北海道にはいないとされている。

raccoon dog と racoon ― 狸とアライグマの違いは?

ちなみに raccoon dog と呼ばれる狸に対して、参考までに raccoon の本家であるアライグマは次のようになります。

pixabay.com アライグマ/raccoon(利用規約により使用許可を得ています。)

こうしてみると今度はタヌキとアライグマがすごく似ていてどこがどう違うのかという話にもなるかもしれませんが、アライグマは尻尾の縞模様が特徴的であるとされています。

アライグマは北海道や沖縄を含む日本列島の全域で生息が確認された事があり、現在でも多くの都道府県で野生化していると見られていますがこれは1960年代以降に急速に起こった事だと言われています。アライグマは狸と違って元々日本にはいない動物でアメリカ大陸にのみ生息していました。それが、飼育用などに輸入したものが脱走して大繁殖したというのです。

つまり、狸とアライグマは顔は似ていますが従来は全然異なる場所でずっと生息していた動物という事になります。(そして生物学的にも少し離れた系統であるわけです。)

アライグマは穴にも住みますが木登りが得意なので、その点は狸と共通しています。体格的にはアライグマは通常は 5~8kgほどでこれは狸と同じくらい、しかし時に体重15kgほどにもなる事があるとされてこれはアナグマ以上の大きさになります。

アライグマの居住地は元々南北アメリカ大陸で、日本やヨーロッパに生息するものは外来種であるとされる。