歯クジラ(イルカ・抹香鯨)の分類と、生息海域・河川の地理

海獣である鯨には歯を持つものと、歯の代わりに「ヒゲ」を持つものがいて、同じく海獣のイルカやシャチは歯を持つ鯨(歯クジラ)の仲間とされています。歯クジラには多くの種がいますが種類の数で言えばいわゆるイルカの仲間が多いのです。(歯クジラの中でいわゆる「鯨」はマッコウクジラとアカボウクジラ。アカボウクジラは顔つきはイルカにも似る。)

しかしいかんせん、イルカの仲間はどれも見た目が似ていて〇〇イルカ、xxイルカなどと言われても「似ていてよく分からん」と感じるのが普通でしょう。シャチなどは見た目が特徴的ですが残りの40種近くを名前と見た目だけで理解する事など困難です。普通の人には覚えて何の得になるのかという話もあります。

そこで、それらのイルカが暮らす生息地域に注目すると大西洋だけに住むものとか南米の特定の海にしかいないものなどがいる事が分かります。生物学的な分類(科、属、種)に加えてそれらの生息地域について詳しく整理しました。この観点から見る事でどういった地域の海や河川にどのようなイルカ等が生息しているかが分かるようになって、環境問題等との関連も知るきっかけにもなるでしょうから雑学・教養として知っておく価値のある知識となるでしょう。

歯クジラ亜目の科での分類

イルカ・シャチ・抹香鯨は分類学での「目(もく)」のレベルではクジラ目(または鯨偶蹄目)の中の歯クジラ亜目(toothed whale)に分類されます。これらの種類は実際に牙のような「歯」を持ちます。

★ザトウクジラ(座頭鯨)や動物の中で最大のサイズであるシロナガスクジラ(白長須鯨)は「髭クジラ」(baleen whale)の一種で、髭クジラ亜目として分類されます。

歯クジラに該当する海獣は比較的名の知れている鯨でまず考えてみると、次のようなものです:

  • イルカ・シャチ
  • スナメリ(尾びれのないイルカ。瀬戸内海や東京湾にも住む)
  • ベルーガ(白イルカ)・イッカク(ともに北極付近に住む)
  • マッコウクジラ(抹香鯨。巨大な鯨。)
  • コマッコウ(小抹香。サイズ的にはイルカに近いかそれ以下)
  • アカボウクジラ(赤坊鯨。顔はイルカに少し似る)

一般的に言う「イルカのイメージ」のものはマイルカ科に属する「ハンドウイルカ」という種のものだと言われております。

イルカやシャチは「真(マ)イルカ科」に属し、スナメリ(砂滑)という種は「ネズミイルカ科」に属します。ベルーガとイッカクは「イッカク科」にまとめられ、他にも河川に住むイルカの科がいくつか存在します。

また、いわゆる巨大な「鯨」としてはマッコウクジラ科が存在し、その近縁としてコマッコウ科(サイズはイルカ並)があります。「アカボウ(赤坊)クジラ科」の鯨は鼻先が長くてイルカのようでもあるが比較的大型です。

世界の海

世界の海は大きな海洋としては太平洋・大西洋・インド洋があり、極地付近の海は北極海・南極海と呼ばれます。さらに小さい区分として、日本海・黄海・オホーツク海などがあり、さらに地域的には瀬戸内海とか東京湾とかそういったものがあります。

さらに、比較的水温の高い暖流と比較的水温の低い寒流が存在します。基本的には南北極地に近いほど寒流が多く赤道に近いほど暖流が多いと言えますが、寒流が赤道近くの地域にも流れ込んだり、逆に暖流の一部が極地に流れ込む事もあります。すると、同じ緯度でも他の海域と比べて水温がやや下がる事があるわけです。
(つまり寒流と言っても同緯度の海水と比較して冷たいという意味であって、極地のような冷たい海域という事ではありません。ただしどの海でも深く潜ると極地の海水温並に水は冷たくなると言われます。)

例えば南米大陸の西沿岸付近を流れるペルー海流は寒流として知られ、アフリカ大陸南西部沿岸付近のベンゲラ海流も寒流です。ペルー流は流れとしては赤道付近から暖流に転じます。

アフリカの西海岸における北部のカナリア海流と南部のベンゲラ海流も寒流です。他方、赤道の北側付近のセネガル~ギニア湾にかけてのギニア海流は暖流であるとされています。また、カナリア海流・ベンゲラ海流ともにアフリカ西海岸付近に流れ込んだのちは暖流に転じて南北アメリカ大陸へ向けた流れとなります(北赤道海流・南赤道海流・ブラジル海流など)。

ニュージーランド付近の海は南極寒流が流れ込みますが周辺には暖流のオーストラリア海流も流れ込んでいます。

海面の平均温度のおおまかな分布。海水中は温度はもっと下がり、水深1000mを超えると大体どこの地域でも似たような感じで5℃を下回ると言われている。大西洋の北部・太平洋・インド洋深部などでは海の深部の冷たい水が上昇して湧き上がってくる場所があり、良い漁場になっていると言われる。

鯨やイルカは温かい水を好むものや冷たい水で暮らすもの、どちらでもいけるものなどがいます。また季節ごとに暖かい海と比較的冷たい海を行き来する事もあり、それは子育てをするためであったり魚の群れの移動に追随しているためであったり、理由は様々のようです。

また陸の岸近くと沖では海の環境も違ってくるわけで、鯨やイルカも沿岸でよく見られるものとそうでないものがあります。主に陸から離れた沖に住む性質を外洋性などという事があります。

広く海の全域で暮らす歯クジラ(シャチと抹香鯨)

どこの海にでも広く暮らしている種類のものは歯クジラ亜目の中では種類としては意外と少なくて、マッコウクジラとシャチなどが該当します。

ただし、いつでもどこにでもいるかというと季節による変動が見られます。それは例えば繁殖のためであったり魚の群れの移動に連動するものであったりするわけです。

和名英名学名生息地域等
シャチ
(鯱)
【マイルカ科】
Killer whale/OrcaOrcinus orca全ての海域(季節等による移動はあり)
6~7m 4000~4500kg
マッコウクジラ
(抹香鯨)
【マッコウクジラ科】
Sperm whalePhyseter macrocephalus全ての海域(季節等による移動はあり)
18~21m
45000~70000kg

シャチ

いわゆるイルカの仲間で世界中どこの海にでもいると言われるものがシャチです。これはマイルカ科の中で単独でシャチ属を構成します。

歯クジラの中で、唯一アザラシやペンギンなどの「陸上にもあがる動物」を襲うと言われています。また他のイルカをも襲い、大型の鯨をも襲って噛みついたりすると言われています。

シャチの体長は6メートル近くにもなると言われます。建物の1階分高さが約3メートルなので、大型の鯨ほどではないにしてもシャチの体の大きさが分かります。

他の歯クジラや髭クジラ同様、シャチも季節によって出没する時期の違いが見られる事があり、季節による魚の群れの移動に連動している事が多いようです。例えばイギリス北~アイスランドの海ではシャチは夏場に、ノルウェー付近では冬から5月くらいにかけてよく見られると言われ、その時期はシャチが食べる魚のニシンがそれらの海域に集まる時期と連動しています。

マッコウクジラ

マッコウクジラ(抹香鯨、古くは真甲鯨とも)は世界中の海にいるとされる鯨です。比較的移動量が少ないとされている鯨で、1年間の移動距離は雄で1400km、雌で600kmほどという報告があります。(東京~那覇までが約1500km。髭クジラのザトウクジラは1ヶ月で同距離程度を移動するとも言われる。)

マッコウクジラの1種だけで科と属を構成します。(マッコウクジラ科マッコウクジラ属)

歯クジラの中で大型の「鯨」はマッコウクジラとアカボウクジラ科の鯨だけで、一般的な「鯨のイメージ」に合うのはマッコウクジラだけと思われます。他のザトウクジラやシロナガスクジラなどの「鯨」は髭クジラになります。

マッコウクジラの体長は20メートル近くにもなると言われ、これは建物で言うとおおよそ6階建てほどの高さにも相当します。

温帯~熱帯の外洋性の歯クジラ

大体北緯40度~南緯30度(※)あたりの温帯・熱帯の沖に広く住むものにはマイルカ科では日本語名で「ゴンドウ」と総称される比較的大型で外洋性のやや大型のイルカが存在します。頭の部分(「メロン」)が前に出ていてクチバシがあまり目立たないのが特徴です。

またコマッコウ科の2種や、アカボウクジラ科21種のうちの半数以上も温帯から熱帯にかけての沖で見られる種です。コマッコウやアカボウクジラは、イルカとしてはやや大型、鯨としてはやや小型という感じで見た目がイルカとも鯨とも断定しがたい種類のものも含まれます。

  • ゴンドウ(巨頭)4属5種【マイルカ科】
  • コマッコウ(小抹香)科コマッコウ属(2種)
  • アカボウクジラ科21種のうち12種ほど

(※)日本の秋田・青森の境辺りが北緯40度、屋久島が北緯30度。南アフリカやオーストラリア南部がおおよそ南緯30度。

スジイルカやハンドウイルカなどのマイルカ科のイルカや、ネズミイルカ科のイルカも沖にいる事もありますが、それらの種類はどちらかというと沿岸付近にもよく現れると言われています。

「ゴンドウ(巨頭)」4属5種

「ゴンドウ(巨頭)」と総称されるイルカとも鯨とも違うような歯クジラの一群がいて、マイルカ科の中で4つの属に分けられています。

オキゴンドウ(沖巨頭)はその1つで「シャチモドキ(false killer whale)」とも呼ばれます。シャチと似た大きさで性格も似ていて他のイルカを襲い、しかし色合いは全身が黒色に近くシャチとの区別がつきます。

日本(関西や沖縄など)やハワイでも見られますがインド洋やペルシャ湾、メキシコ湾など幅広く見られます。沿岸にも出没するが基本的には外洋性で、普通は沖合いに住むようです。

大西洋や地中海にもいるが比較的少ないとも言われます。現代においてもまだ調査がそれほど進められている種類のイルカではないそうです。

  • オキゴンドウ属1種
  • カズハゴンドウ属1種
  • ハナゴンドウ属1種
  • ユメゴンドウ属1種
  • ゴンドウクジラ(巨頭鯨)属2種
和名英名学名生息地域等
オキゴンドウ
(沖巨頭)
False killer whalePseudorca crassiden温帯と熱帯の海域
(稀にその他の海域にも)
5.5m 2000kg
カズハゴンドウ
(数歯巨頭)
Melon-headed whalePeponocephala electra熱帯の海域
2.2m 160kg~300kg
ハナハゴンドウ
(花巨頭)
Risso’s dolphinGrampus griseus温帯と熱帯の海域
4m 400kg
ユメゴンドウ
(夢巨頭)
Pygmy killer whaleFeresa attenuata温帯・亜熱帯の海全域
2.3m 170kg
ヒレナガゴンドウ
Long-finned pilot whaleGlobicephala melas北大西洋の温帯海域と
南半球の海全域
5~6m 1800~3500kg
コビレゴンドウShort-finned pilot whaleGlobicephala macrorhynchus温帯と熱帯の海全域
3.5~5.5m 1300~2500kg

コマッコウ科2属2種

科のレベルでマッコウクジラと区別されているコマッコウ科(小抹香)には2種が存在します。(それぞれ1種で1属を構成。)基本的には外洋性で、沖で見られると言われます。

英名ではコマッコウは Pygmy sperm whale つまり「鯨」と呼んでいるのですがサイズ的にはイルカに近く、小型のイルカよりはやや大きいものの、シャチや沖ゴンドウに比べれば体格は小さいのです。和名で明らかに「抹香鯨」を意識しながら「鯨」を省いているのはそういった事も関連しているのかと推測されます。

また、コマコッコウ科の2種は抹香鯨と違って冷たい水の海域にはあまり見られないと言われています。

和名英名学名生息地域等
コマッコウ(小抹香)Pygmy sperm whaleKogia breviceps温帯~熱帯の海域の沖
3~4m 500kg 
オガワコマッコウ(真海豚)Dwarf sperm whaleKogia sima温帯~熱帯の海域の沖
2.8m 350kg
 

アカボウクジラ(温帯に生息するもの)

アカボウクジラ(赤坊鯨 beaked whale)は見た目も大きさも「鯨とイルカの中間」といった感じで、体長は4m以上にもなるが10mは越えない範囲。21種が存在し、色合い的に薄い赤~茶のものもいますが白~灰・黒っぽい色合いのものもいます。

アカボウクジラ科は20種以上で構成されますが、半数以上ほどは比較的温暖な地域の海に住むと言われています。アカボウクジラは多くが外洋性で、まだ調査が進んでいないものも現代でも依然として多く、特にオウギハクジラ属(扇歯鯨属)に含まれる種類には詳細が不明なものが多いとされます。

ここでは、比較的温暖な海域を好むとされる4属のアカボウクジラを挙げます。(残りは後述。)上述のように単純な見た目としては「鯨」よりもイルカに似ているものも少なからずいます。

  • トックリクジラ属2種
  • タイヘイヨウアカボウモドキ属1種
  • アカボウクジラ属1種
  • オウギハクジラ属14種のうち9種
和名英名学名生息地域等
キタトックリクジラ
(北とっくり鯨)
Northern bottlenose whaleHyperoodon ampullatus北大西洋に広く分布(夏季はさらに北上する事も)
7~9m 10000kg
ミナミトックリクジラ
(南とっくり鯨)
Southern bottlenose whaleHyperoodon planifrons南半球の温暖な海域
7m 6000kg
タイヘイヨウアカボウモドキ
(太平洋赤坊もどき)
Longman’s beaked whaleIndopacetus pacificus太平洋南西部~インド洋の熱帯の海域(調査はあまり進んでいない。)
6.5m
アカボウクジラ
(赤坊鯨)
Cuvier’s beaked whaleZiphius cavirostris高緯度を除く海の全域(地中海含む)
7m 5600kg
アカボウモドキ
(赤坊もどき)
True’s beaked whaleMesoplodon mirus大西洋の温帯の海域
5m 3200kg
イチョウハクジラ
(銀杏歯鯨)
Ginkgo-toothed beaked whaleMesoplodon ginkgodensスリランカ~日本~合衆国カリフォルニアにかけての温暖な海域
5.2m 3600kg
ヒガシアメリカオウギハクジラ
(東アメリカ扇歯鯨)
Gervais’ beaked whaleMesoplodon europaeusメキシコ湾・カリブ海~大西洋西部など(温暖な海域の深い場所を好むとされる)
6.7m 5600kg 黒っぽい
コブハクジラ
(瘤歯鯨)
Blainville’s beaked whaleMesoplodon densirostris太平洋・大西洋の温帯~熱帯の海域
5.2m 3600kg
ニュージーランドオウギハクジラ Hector’s beaked whaleMesoplodon hectori南半球の温暖な海域全般
3.7m 2000kg
ペリンオウギハクジラ Perrin’s beaked whaleMesoplodon perrini合衆国西海岸(カリフォルニア)付近
4m 白~黒の色合い、ニュージーランド扇歯鯨に似る
ハッブスオウギハクジラHubbs’ beaked whale/Arch beaked whaleMesoplodon carlhubbsi太平洋の北緯30度~50度の範囲の海域
5m 3400kg
トラバースオウギハクジラ Spade-toothed whaleMesoplodon traversiiニュージーランド~チリに至る海域
4.5m 黒~灰色
ピグミーオウギハクジラ Pygmy beaked whaleMesoplodon peruvianusニュージーランド~チリに至る海域
4.5m 黒~灰色

比較的小型の外洋性のイルカ

体長2m程度の歯鯨の中では小型のイルカで、温帯~熱帯に住む外洋性の種類としてはセミイルカ属、サラワクイルカ属などがいます。これらはシャチやオキゴンドウなどと同じくマイルカ科のイルカです。

  • セミイルカ属2種のうち1種
  • シワハイルカ1属1種
  • サラワクイルカ1属1種

これらの他に、沿岸で主に生息するイルカの種類であっても一部沖で見られる場合もあります。

和名英名学名生息地域等
セミイルカ(背美海豚)Northern right whale dolphinLissodelphis borealis太平洋温帯の沖(稀に沿岸にも)
2.1m 70kg 
サラワクイルカ
(Sarawak 海豚)
Fraser’s dolphin/Sarawak dolphinLagenodelphis hosei温帯~熱帯の海全域(外洋性で沿岸にはあまり見られない) 2.3m 90kg
シワハイルカ
(皺歯海豚)
Rough-toothed dolphinSteno bredanensis温帯~熱帯の海全域(南緯30°~北緯40°くらい。主に沖) 2.4m 140kg

セミイルカ属セミイルカ(Northern right whale dolphin)

セミイルカ(背美海豚)は今の所、太平洋の沖でしか観測されていないイルカです。

髭クジラで「背美鯨(right whale)」と呼ばれるものがいて、セミイルカはそれとの類似性から付けられた名称かと思いますがと大型の鯨と比べるとセミイルカはずっと小型です。

セミイルカ属には2種がいて、日本国内でも確認されているのは「セミイルカ属セミイルカ」になります。もう1つのシロハラセミイルカは青と白の色合いが特徴的ですが南半球に生息しています。

サラワクイルカ属

「サラワク」とは ボルネオ島北西部にあるマレーシアの州サラワク(英語表記:Sarawak)の事。(ボルネオ島は北部マレーシア、残りはインドネシア。)「サラワクイルカ」は実際ボルネオ周辺にも生息しますがそこだけではなくオーストラリアや南アフリカの付近でも見られ、現在では大西洋も含めて温帯~熱帯の海に広く存在すると考えられているようです。

ただしサラワクイルカは「外洋性」のイルカであり沿岸付近にはあまり姿を現さず、日本近辺では稀にしか見られないと言われます。サラワクイルカ属は、サラワクイルカ1種で構成されています。

シワハイルカ属

「シワハイルカ(皺歯海豚)」は歯の見た目に特徴があると言われるイルカです。根本的に他の歯クジラと異なるかというと微妙ですが実際に細かい筋のような模様が歯に見られるようです。全体的に灰色で白い斑点が体の側面にあるのが特徴。

動きは他のイルカに比べるとゆっくりだと言われます。このイルカは日本付近の沖でも比較的見られるようです。シワハイルカ1種で1つの属を構成します。

温帯~熱帯の沿岸性の歯クジラ

温帯から熱帯にかけて比較的沿岸の海域で多く見られる種類としてはマイルカ科のいくつかの属のものと、ネズミイルカ科のイルカがいます。

  • スジイルカ属(マイルカ科)
  • ハンドウイルカ(マイルカ科)
  • マイルカ(マイルカ科)
  • ウスイロイルカ属(マイルカ科)
  • ネズミイルカ科の数種
  • 河川に住むイルカの一部が沿岸の海にも住む

スジイルカ属:太平洋~大西洋

スジイルカ(striped dolphin)は5種ほどがいて、灰色などの色合いが独特の小型~中型のイルカです。英名に表れている「ストライプ」(stripe)というのは「筋(すじ)」とも言えますがシマウマなどの「縞(しま)」の事でもあります。

スジイルカ属のイルカはおおむね、温かい地域の海に広く分布しています。このうち2種は温帯~熱帯の海域に広く分布しており、残り3種は太平洋や大西洋などにやや偏って分布しています。全体で見ると、どちらかというと大西洋側に多く見られるイルカの属と言えるかもしれません。沖にも見られるが、やや沿岸付近を好むとも言われます。

和名英名学名生息地域等
スジイルカ(筋海豚)Striped dolphinStenella coeruleoalba温帯~熱帯の海域2.4m 100kg 
ハシナガイルカ
(嘴長海豚)
Spinner dolphinStenella longirostris熱帯の海域(主に大西洋だが他の海域も)
1.8m 75kg 
「嘴」は「クチバシ」
クライメンイルカClymene dolphinStenella clymene温帯~熱帯の北大西洋(ギニア湾~メキシコ湾・合衆国東海岸)2m 80kg 
マダライルカ(斑海豚)Bridled dolphin/Pantropical spotted dolphinStenella attenuata温帯の海域(特に太平洋と大西洋)(※)2.2m 160kg~300kg 
タイセイヨウマダライルカ
(大西洋斑海豚)
Atlantic spotted dolphinStenella frontalis熱帯の海域(主に大西洋だが他の海域も)
1.8m 75kg

マイルカ属とハンドウイルカ属

ハンドウイルカは一般的な「イルカのイメージ」のイルカであるとされていて、バンドウイルカとも呼ばれたりします。

科の名前にも代表されているマイルカですが、属以下の分類だと「クチバシが長い(ハセイルカ)か短いか」で種を分ける説が1990年代に広く受け入れられたものの、最近になってやはり1種にまとめるべきという説が有力視されているなど分類の混乱が見られる属です。ここではマイルカ属マイルカだけを挙げておきます。

ハンドウイルカとマイルカのいずれも沿岸に住む事の多い種で人目に付く事も多く、日本や合衆国の沿岸でも見られるイルカです。(沖で見られる事もあるとされます。)

  • ハンドウイルカ属2種のうち1種
  • マイルカ科マイルカ属(ここではマイルカ1種のみを挙げる)
和名英名学名生息地域等
ハンドウイルカ/バンドウイルカ(半道海豚/坂東海豚)
【ハンドウイルカ属】
Bottlenose dolphinTursiops truncatus温帯~熱帯の沿岸
3~4m 150~200kg 
マイルカ
(真海豚)
【マイルカ属】
Common dolphinDelphinus delphis温帯~熱帯の地域の沿岸(黒海や地中海含む)
2.2m 85kg
【マイルカ属】 

ウスイロイルカ属【薄色海豚】など

赤道近くのアフリカ西海岸と、マダガスカル付近から始まるアフリカ東海岸から紅海・ペルシャ湾・インド・ベンガル湾を経て東南アジアに至る沿岸などに住むイルカとして「ウスイロイルカ(薄色海豚)属」に属するイルカがいます。

従来3種が知られていましたが比較的最近(2014年)1種が付け加わり4種となっています。

ウスイロイルカ属の4種は見た目の違いも少しありますが
「アフリカ東海岸~東南アジア西部までの沿岸」
「バングラデシュ~東南アジア・中国南部までの沿岸」
「アフリカの西海岸」
に住むという生息地域の違いがあります。(アフリカ東海岸~東南アジアに住むものを1つの種と考えて両者を亜種での区別とする説もあります。)

また、ハンドウイルカの仲間のミナミハンドウイルカ(ハンドウイルカ属)も東アフリカから東南アジアの岸に沿った沿岸付近で見られ、ウスイロイルカと生息分布が似ています。ミナミハンドウイルカは日本でも見られる種です。

和名英名学名生息地域等
シナウスイロイルカ(シナ薄色海豚)Indo-Pacific humpback dolphinSousa chinensisバングラデシュ~中国南部・インドネシア・フィリピン・台湾沿岸など2m 85kg 薄いピンク
ウスイロイルカ(薄色海豚)Indian humpback dolphinSousa plumbeaアフリカ東海岸全域・紅海・ペルシャ湾・バングラデシュ~ミャンマー付近の沿岸など
アフリカウスイロイルカ(アフリカ薄色海豚)Atlantic humpback dolphinSousa teusziiisidii西アフリカの西サハラ~アンゴラの沿岸など・一部は河川にも 1.2m 45kg
オーストラリアウスイロイルカAustralian humpback dolphinSousa sahulensisオーストラリア北部・パプアニューギニア南部沿岸付近 2.75m 薄灰色
ミナミハンドウイル(南半道海豚)【ハンドウイルカ属】Indo-Pacific bottlenose dolphinTursiops aduncusアフリカ東海岸・紅海・ペルシャ湾~東南アジア・日本南部の沿岸
2.7m 230kg

河川に住むイルカの一部等で沿岸にも住むもの

マイルカ科の一部のイルカは河川と沿岸の海の両方で確認されているものがいます。カワゴンドウ属のイルカと、コビトイルカ属のイルカの一部がそれに該当します。これらのイルカは概ね小型の種類です。

また、別の歯クジラの科で「ラプラタカワイルカ」(ラプラタ河海豚)というイルカがいますがこれは川よりもむしろ沿岸に住むと言われていて、ブラジルのリオデジャネイロ付近からアルゼンチンのバルデス半島付近の沿岸の海に生息しています。

  • カワゴンドウ属2種(マイルカ科)
  • コビトイルカ属2種のうち1種(マイルカ科)
  • ラプラタカワイルカ(ラプラタカワイルカ科)
和名英名学名生息地域等
カワゴンドウIrrawaddy dolphinOrcaella brevirostris東南アジアの沿岸(ベンガル湾、インドネシア等)・河川 2m 100kg
オーストラリアカワゴンドウAustralian snubfin dolphinOrcaella heinsohniオーストラリア北部(~一部東部や河川)・パプアニューギニア南部の沿岸
ギアナコビトイルカGuiana dolphinSotalia guianensisニカラグア~ブラジルにかけての沿岸部、カリブ海の一部の島の付近、南米北東部の河川 1.5m 40kg 薄い灰色
(コビトイルカ)TucuxiSotalia fluviatilis(アマゾン川)
ラプラタカワイルカ【ラプラタカワイルカ科】La Plata dolphin/FranciscanaPontoporia blainvilleiブラジルのリオデジャネイロ付近~アルゼンチンのバルデス半島にかけての沿岸
1.5~1.7m 30~50kg濃い灰色~黒

カワゴンドウ属

カワゴンドウ属の2種のイルカは東南アジアからオーストラリア北部の沿岸で見られ、和名では「河巨頭」と呼んでいるように河川にも住みます。あるいは、沿岸の海においても淡水と海水が混じる場所にいるとも言われる。いずれにしても東南アジア~オセアニアの比較的暖かい地域に見られるイルカという事になります。

以前は東南アジアとオーストラリア北部にいるものは1つの種として考えられていましたが、最近(2005年以降)では東南アジアに分布するものとオーストラリア北部にいるものを同属の別々の種と考える事が多くなっています。

オキゴンドウ等とは違って体格的には小型のイルカと大体同じ。口先が尖っておらず頭を含めて丸っこく、見た目は愛嬌のある顔をしています。

ギアナコビトイルカ(コビトイルカ属)

アマゾンの河川に住むコビトイルカ属のイルカは一部が南米東の沿岸にもいる事が知られていました。そしてそれらのうち海にもいる事があるものは「ギアナコビトイルカ(Guiana dolphin)」と呼ばれるようになり、河川にだけいる種(コビトイルカ、Tucuxi)と別種と考えられるようになりました。

ネズミイルカ科のイルカ

ネズミイルカ(porpoise)科のイルカはマイルカ科の小型のものよりもさらに一回り小さく、体長が2mを超えないものが少なくありません。7種のそれぞれはどれも基本的には沿岸付近でよく見られますが、生息地域の特性があります。

多くは温帯の地域に生息しますが、一部はやや冷涼な場所にも住みます。

瀬戸内海などに住む「スナメリ(砂滑)」はネズミイルカ科のイルカです。また、日本の東北地方で「リクゼンイルカ」と呼ばれるものはイシイルカの仲間になります。

  • ネズミイルカ属3種(ネズミイルカ、コガシラネズミイルカ、コハリイルカ)
  • スナメリ属1種
  • イシイルカ属(ここでは1種のみ挙げる)
  • (メガネイルカ属はネズミイルカ科のうち、やや冷涼な地域にいる)
和名英名学名生息地域など
ネズミイルカ
(鼠海豚)
Harbour porpoisePhocoena phocoena温帯の北太平洋、北大西洋、地中海、黒海など。(一部はベーリング海などにも)
1.5~1.9m 50~65kg
コガシラネズミイルカ
(小頭鼠鯆)
Gulf of California porpoise/VaquitaPhocoena sinusカリフォルニア湾
1.2~1.5m 30~55kg
目の周りが少し特徴的
コハリイルカ
(小針海豚)
Burmeister’s porpoisePhocoena spinipinnisチリ~アルゼンチン・ウルグアイの沿岸
1.4~1.8m 40~70kg 黒い
スナメリ
(砂滑)
Finless porpoiseNeophocaena asiaeorientalisイラン~日本の沿岸、ニューギニアなど(浅い海に住む)
1.4~1.6m 30~45kg
背びれがない
イシイルカ Dall’s porpoisePhocoenoides dalli日本~ベーリング海~カリフォルニア南部までの沿岸(深い海を好む)
1.7~2.2m 130~160kg
黒く、腹部と尾びれだけ白い
(メガネイルカ)
【やや冷涼な海域に住む】
Spectacled porpoisePhocoena dioptrica南米フォークランド諸島付近
1.5~2m 60~80kg

高緯度や冷涼な海に住む歯クジラ

比較的水温が低い海域や、高緯度(※)の海域で暮らす歯クジラも存在します。

(※)参考までに、南米の南端やフォークランド諸島はおおよそ南緯50度で、樺太の中部・カムチャッカ半島の南部・アメリカとカナダの国境付近・イギリス海峡付近は北緯50度です。

イッカク科の2種やアカボウクジラ科の一部の他、マイルカ科ではイロワケイルカ属、カマイルカ属のイルカが主に該当します。

ネズミイルカ科では前述のイシイルカの一部がベーリング海などの冷涼な海で見られる事もあります。また、同じく前述の世界の海に広く生息するシャチやマッコウクジラも冷涼な海域にいる事のある歯クジラの種類という事になります。

イッカクとベルーガ(シロイルカ)

イッカク科には「イッカク」と、シロイルカとも呼ばれるベルーガの2種がいます。(イッカク科には2属がありますがいずれも1種のみで構成されています。イッカク属とシロイルカ属。)これらの2種は体長5メートル近くにもなり、「イルカ」としては大型です。

いずれも北極海付近の海に住んでいますが、ベルーガはユーラシア大陸北部(バレンツ海~東シベリア海にかけて)、アラスカ北部、カナダ北東部の北極海諸島周辺やハドソン湾などで暮らしています。主に沿岸で見られ、河口付近や湾の近くを好むとも言われます。また、冬季になるとグリーンランド付近の海やベーリング海、オホーツク海などに移動するとも言われます。

他方でイッカクの分布はベルーガと重なる部分もありますが少し異なっているようで、主にバレンツ海付近やハドソン湾北部・北極海諸島付近に住んでいて、冬季になるとグリーンランドの西部(デーヴィス海峡)や東部に移動するとされます。イッカクの生息分布は北極の氷の分布に影響されるとも言われます。

イッカクはユニコーンのような長い「角」を持ちますが、体の組織的には「牙」であると言われています。

和名英名学名生息地域等
イッカク
(一角)
NawhalMonodon monocerosバレンツ海・ハドソン湾・北極海諸島(カナダ)~冬季にはグリーンランド付近
4~5.5m 800~1600kg
シロイルカ
(白海豚、ベルーガ)
White whale/BelugaDelphinapterus leucasバレンツ海~東シベリア海、
ボーフォート海(アラスカ北部)、北極海諸島付近、ハドソン湾~冬季にはグリーンランド周辺、ベーリング海・オホーツク海の一部
4~5.5m 500~1500kg

亜寒帯や高緯度の海のアカボウクジラ

アカボウクジラ21種のうち半数以上は比較的温暖な海域に住むとされますが、残りのものは高緯度の海域に住んだり南極方面に移動したりするものがいます。

  • ツチクジラ属2種
  • タスマニアクジラ属1種
  • オウギハクジラ属14種のうち5種

これらのアカボウクジラ科の歯クジラも基本的に外洋性です。

和名英名学名生息地域等
ツチクジラ
(槌鯨属)
Baird’s beaked whaleBerardius bairdii北太平洋の北緯30度~ベーリング海、オホーツク海など(一部は合衆国カリフォルニア付近にも)深く潜る
12~13m 13500kg
ミナミツチクジラ
(南槌鯨属)
Arnoux’s beaked whaleBerardius arnuxii南緯30度以上~南極海までの海域
9~9.8m 約10000kg
タスマニアクジラ Shepherd’s beaked whaleTasmacetus shepherdiオーストラリア南部・ニュージーランド付近~南極海
6.6m 5600kg
ヨーロッパオウギハクジラSowerby’s beaked whaleMesoplodon bidens大西洋北部(北緯50度以北と考えられるが調査はあまり進んでいない。)
5m 3400kg
オウギハクジラ
(扇歯鯨)
Stejneger’s beaked whale/Bering Sea beaked whaleMesoplodon stejnegeri太平洋の北緯40度以北~ベーリング海など
6m 4800kg
ヒモハクジラ
(紐歯鯨)
Strap-toothed whaleMesoplodon layardii南緯30度~南極海の比較的低温の海域を周回すると見られる
5m 3400lg黒+白の色合い
タイヘイヨウオウギハクジラ
(太平洋扇歯鯨)
Andrews’ beaked whaleMesoplodon bowdoini南緯30°~50°辺りの海域に住むらしいが詳細がまだ分かっていない
4~5m 2600kg 全体的に灰色
ミナミオウギハクジラ
(南扇歯鯨)
Gray’s beaked whaleMesoplodon grayiアフリカ・オーストラリア・南米の南部~南極付近を周回
6m 4800kg クチバシだけ白く、残りは黒っぽい

イロワケイルカ属(4種)

次の4種はマイルカ科の「イロワケイルカ属」です。(この4種で属を構成。)マイルカ科の小型のイルカで、沿岸性のものが含まれる。いずれも日本近辺の海には生息していません。

和名英名学名生息地域等
イロワケイルカ
(色分海豚)
Commerson’s dolphinCephalorhynchus commersonii南米フォークランド諸島など1.3m 50kg
黒い部分より白い部分のほうが広い
ハラジロイルカ(腹白海豚)White-bellied dolphin/Black dolphinCephalorhynchus eutropiaチリの沿岸付近など 1.2m 45kg
普通のイルカに似る
コシャチイルカ
(小鯱海豚)
Heaviside’s dolphinCephalorhynchus heavisidii南アフリカ・ナミビア沿岸等1.2m 40kg
黒い体に白模様
セッパリイルカ
(背張海豚)
Hector’s dolphinCephalorhynchus hectoriニュージーランド周辺 1.4m 40kg
薄い灰色~白に黒模様

カマイルカ属

マイルカ科のカマイルカ属のイルカのうち「カマイルカ属カマイルカ」の種は太平洋で生活し、日本でも見られます。

和名英名学名生息地域等
ハラジロカマイルカ
(腹白鎌海豚)
Dusky dolphinLagenorhynchus obscurusチリ・アルゼンチン・南アフリカ・オーストラリア南部・ニュージーランドの沿岸・インド洋や大西洋の南部の諸島など
1.8kg 115kg
東西の南米・アフリカ・オセアニアの4地域に住むのは各々異なる亜種
ダンダラカマイルカ(段だら?※)Hour-glass dolphinLagenorhynchus cruciger南極寒流の北部全域(主に暖流とぶつかり合う場所付近と言われる)1.6m 100kg 黒と白の色合いが不思議
ミナミカマイルカPeale’s dolphinLagenorhynchus australisアルゼンチン・チリ・フォークランド諸島周辺(主に低水温の海域)2m 115kg
カマイルカ
(鎌海豚)
Pacific white-sided dolphinLagenorhynchus obliquidens北緯20~60度付近の海。中国・日本~北米カリフォルニア半島までの沿岸と沖合(ベーリング海にはあまりいない)
2m 90kg
タイセイヨウカマイルカ
(大西洋鎌海豚)
Atlantic white-sided dolphinLagenorhynchus acutusカナダ東海岸・グリーンランド~イギリス・ノルウェー・スヴァーバル諸島にかけての北大西洋沿岸・沖合 2.5m 215kg

※段がいくつもある事を「段だら」と表現する事があります。段々。

その他

太平洋沖に住むセミクジラの仲間のシロハラセミイルカ(セミクジラ属)は南の海のかなり高緯度の場所でのみ見られるイルカです。オーストラリア南部や南アフリカの沖などから南極寒流付近を周回しているのではないかと見られています。

また、前述のネズミイルカ科の多くは温帯の海に生息しますが一部はやや冷涼な地域にも住みます。

  • シロハラセミイルカ【マイルカ科セミイルカ属】
  • イシイルカ【ネズミイルカ科】一部はベーリング海付近で見られる
  • メガネイルカ【ネズミイルカ科】フォークランド諸島付近に住む
  • コハリイルカ【ネズミイルカ科】一部は南米の南端付近にも住む
和名英名学名生息地域等
シロハラセミイルカ(白腹背美海豚)Southern right whale dolphinLissodelphis peronii南米の南部・南アフリカ・オーストラリア南部の沖~南極海付近
3m 110kg(※もっと小さいという報告もあり) 
メガネイルカ
【ネズミイルカ科】
Spectacled porpoisePhocoena dioptrica南米フォークランド諸島付近
1.5~2m 60~80kg

淡水の河川に住むイルカ

淡水の河川に住むイルカは総称して「カワイルカ(河海豚)」と呼ばれますが、多くのものは住んでいる世界の地域ごとに「科」のレベルで分かれている事が普通です。

  • ガンジスカワイルカ科:2属2種(ガンジスカワイルカとインダスカワイルカ)
  • アマゾンカワイルカ科1属1種
    同じくアマゾン川に住む「コビトイルカ」はマイルカ科のイルカ。)
  • 揚子江カワイルカ科1属1種
  • ラプラタカワイルカ科1属1種(※)

また、前述の沿岸の海に住むマイルカ科のごく一部のイルカ(カワゴンドウ、ギニアコビトイルカ)は河川にも住んでいます。

(※)ラプラタカワイルカは「ラプラタ川」には住んでおらず、ブラジル~アルゼンチンの沿岸の海で見られます。ただし、ラプラタ川というのは川といっても実質的には湾(あるいは大きな三角州)のようになっていて、海から入り込んで来る「ラプラタカワイルカ」も多少はいるのかとは推測されます。

和名英名学名生息地域など
ガンジスカワイルカ Ganges River dolphin/Ganges susuPlatanista gangeticaガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川の河川系(インド・
ネパール・バングラデシュ)
2~2.6m 80~90kg
白~薄灰色、くちばしが長い
インダスカワイルカ Indus river dolphin/Indus susuPlatanista minorパキスタンのインダス川の河川系
2.5m 70~110kg 灰色、くちばしが長い
アマゾンカワイルカAmazon dolphin/Boto(Botou)Inia geoffrensisアマゾン川・オリノコ川の河川系
2~2.5m 80~130kg 白~薄ピンク
(ラプラタカワイルカ)【河川にあまり住んでいない】La Plata dolphin/FranciscanaPontoporia blainvillei(ブラジル~アルゼンチンの沿岸)
1.5~1.7m 30~50kg濃い灰色~黒
ヨウスコウカワイルカ
(揚子江河海豚)
White fin dolphin/BaijiLipotes vexillifer中国の揚子江
2.2~2.5m 130~230kg白~薄灰色
コビトイルカ
(小人海豚)
【マイルカ科】
TucuxiSotalia fluviatilisブラジル~コロンビア・
エクアドル・ペルーにかけてのアマゾン・オリノコ川の河川系
1.4m 30~40kg 薄い灰色
ギアナコビトイルカ
【マイルカ科】
Guiana dolphinSotalia guianensisアマゾン川の河川系など(南米北東部)と中南米~ブラジルの沿岸の海 1.5m 40kg
カワゴンドウ
(河巨頭)
【マイルカ科】
Irrawaddy dolphinOrcaella brevirostrisエヤワディ川(ミャンマー)、
メコン川
(ベトナム・カンボジア等)、
マハカム川(インドネシアのボルネオ島東部)、
チリカ湖(インド東部)、
ソンクラー湖(タイ南部)等
・東南アジアの沿岸 2m 100kg
オーストラリアカワゴンドウ
【マイルカ科】
Australian snubfin dolphinOrcaella heinsohniオーストラリア北部(~一部東部や河川)・パプアニューギニア南部の沿岸

河川に住むイルカの一部はダム建設などによって過去よりも生息場所が減りつつある事が指摘されています。