次第に外が暗くなり始め、雪は降り続けていた。暗さは不安を誘ったが、あと少しで母が帰宅するはずと思うとお雪は期待でそわそわし始めた。そしてある時に玄関戸を叩く音が聞こえ、母だと思った。そして喜んで立ち上がり、急いで駆けて鍵を開けようとした。
「母はどこにいるか」
お雪は慌てて戸から手をどけて跳び退いた。それは明らかに母の声ではなく、よく考えてみると母は鍵を持って出かけたのだから、玄関戸を叩く必要が無かった。
「母はまだ帰っておりませぬ。どちら様でございますか」とお雪は戸越しに慎重に尋ねた。
――相手が誰でも戸を開けずにやり過ごさないと。
昼間の教訓から彼女はそう思った。
しばらく沈黙が走った。
それを不自然に思ったお雪が耳を戸に近付けると、どおん、どおん、と激しく大きな音がしたので彼女は再び跳び退いた。叩くとか殴るとかの程度ではなくぶち破ろうとするような音に思えた。実際、戸は音が響く度に屋内側に向けて曲がって変形していた。そしてそれが少し止んだかと思うと引っ掻くような不快な音が響き渡った。
お雪はようやく何かを思い出した――夜にやってくるかもしれないという狐の話。
時はまだ夕刻だが、外は既に真っ暗だった。まさか、という思いもあったが最早考えている余裕は昼間の強盗が来た時以上に無く、お雪は青ざめ慌て、問答の仕方を必死に思い起こし「わ、私の中に」と必死に言った。彼女の心臓の拍動は激しくなっていた。
すると、音は止んだのだった。雪が降るほんの僅かな音だけが戸越しに聞こえた。
お雪は少し落ち着いたがこれはいよいよ母が言っていた妖狐であろうと確信した。まさか話を聞いた翌日に来るとは思わず、彼女は緊張して身構えた。
間が空き、やがて「食べ物が欲しい」と外の声は続けた。
その感情が籠っていない声で乞われるのは不気味だった。
――仮に人間が単に食料を奪いたいなら、こんな手の込んだ事をする必要があるはずがない。
お雪はそう思った。
――でも、これが狐だとしても……昨日お雪が出会った少年とは明らかに異なると思えた。
全く別の妖狐……それが少年の「仲間」なのかは分からなかった。お雪は調理場に行き震える手で芋を一本取り出して、差し出そうと思って玄関に戻った。
母の言葉を必死に丁寧に思い出すと、戸を少しだけ開けて食べ物を与えれば良い。しかし、それが案外勇気のいる事だと気付くと怖くて戸を開けられず、つい言葉を発した。
「お芋でいいですか」
外の声は沈黙を保った。お雪は余計で無駄な事を言ったと後悔した。先刻の戸を激しく打つ音から考えると、どうせ相手は玄関戸を破ろうと思えば簡単に破るに違いないと思い、お雪は賭けに出る事にして静かに錠を解き、少しだけ戸を開けた。
その瞬間に何か黒く長いものが、異常な速さで隙間から彼女の手の芋を奪い取った――果たしてそれが「手」であったか、観察する余裕はお雪には無かった。
それが隙間から出て行った後、お雪は即刻戸を閉めてしっかりと再び鍵をかけた。
次に言われるはずの言葉には、何か詫びを返せばよいはずだった。一体何に対する詫びだかも分からなかったが、とにかくお雪は焦る気持を抑えて冷静に備えた。
「お前を嫁に貰いたいが、よいか」
自分の記憶違いだったかと思い、お雪は固まった。
だがすぐに、普通と違う事を稀に聞かれるという母の話を思い出した。
懸命に記憶を辿り「あ、あの」と彼女は言葉を繋げ、ようやく「はい」という極めて単純な言葉を絞り出した。
相手は何も言わず沈黙が続き、音もしなくなった。相手は去ったと思ってお雪は息を切らし床に座り込んだ。外では雪が降り続き、時間は経過していった。
突如、戸から音が聞こえてお雪は這って家の奥へ逃げようとした。玄関戸が開いた。
入ってきたのは母だった。出かける時には持っていなかった大きな布袋を背負っており、
袋の口からは野菜やら芋やらが顔を出していて食べ物が詰まっていると分かった。
「ただいま、お雪。遅くなったね」
姿形、声ともに紛れもなく母だった。お雪はようやく安堵に包まれたが、母は調理場の籠を見た時に、芋の数が少ない事にすぐに気付いたようだった。
「あれ?こんなに残り少なかった?芋。お雪、お前そんなに沢山食べたのかい」
「あ……。いや、あの。その、母上……」
「まあ、何でもいいよ」
母はそう言って、娘を問い詰めようとはしなかった。
その晩、お雪は煮られた野菜を沢山食べる事ができた。
――大根なんて食べるのは久しぶり。汁にも味が染み込んでいて美味しい……でも母上は、どこからあんなに野菜を得たのだろう。
生き返るようにお雪は味わいつつ、疑問も感じたが敢えて聞こうとも思わなかった。非常に疲れていた事もあり、昼間の事も一切口に出さなかった。
布団に入る時、傍に母がいる事でお雪は心の底から安心した。
――仮に誰が家にやって来ようとも、母上が守ってくれる。お雪はそう思った。
夜遅くなると、風がまた一層強くなり始め、荒々しく大きな音を立てて吹き荒れた。
その夜、泣くような悲鳴がして、お雪は目を覚ました。
時刻は分からぬが、もう深夜であろうか。朝ではない。見ていた夢が唐突に途切れて目が覚め、独特の不快感が頭を襲った。夢の中で彼女はどこか広い所を、誰かと会話しながら歩いていた気がした。会話の内容は思い出せなかった。
悲鳴らしきものは夢の一部だと思おうとしたが、少し経つと僅かながら再びそれは耳に入ってきたお雪は風の音だろうと思った。冬の嵐の風の音などは人が唸っているような不気味な音色を出す事がある。
しかし今度は激しくむせび泣くような声も聞こえた。お雪はすぐ隣で寝る母を見た。母の寝顔を普段注意深く見る事はあまりないが、今見ると実に満足気に気持よく眠っているようで、無理に起こしたくなかった。
気味の悪い声は繰り返し発生した。お雪は嫌な気持で布団を被り、無理やりにでも眠りに就こうと思った。すると、嫌な声は少しずつ大きくなって聞こえてきた。お雪は目を強くつむったが声は叫びや泣きから転じて言葉を発し始めた。
「開けて」とかすかに聞こえた。気のせいかと思おうとした時にまた「お願い開けてぇ」と聞こえた。お雪は一度目が覚めたようでまだ夢の中にいるのだろうと思った。
何か音が聞こえた。がりがりと、何か聞き覚えがあるような音だった。気のせいだと思うとまた同じ音はした。声は初め壁から聞こえてきたようだったが、それは玄関口の方へ段々と移動して来ていた。お雪は掛布団を静かにめくり、ゆっくりと起き上がった。すると今度は明確に玄関戸の方から戸を強く叩く音がした。お雪は痙攣するように震えてそちらを見た。母を起こそうかと思ったがお雪は闇の中の玄関戸から目が離せなくなった。
玄関戸がまた強く叩かれ、強く引っ掻くような音もした。お雪は、これは夢ではなく確実に何かがいると思った。あの時、受け答えはきちんとしたはずなのに。緊張で胸が張り裂けそうな心持で、彼女は静かに立ち上がり、闇の中、忍び足で玄関に向かった。
戸がまた強く叩かれ、「開けて」と声が聞こえた。
お雪は恐ろしくて震え上がったが、一応、そっと戸に近寄り「どちら様ですか」と小さく言った。こんな時間に来るのは「人」ではあり得ないと思いつつ。
「母親を出して」と声は言った。お雪は目を見開いて後退りした。戸が激しく叩かれた。
「母親いるよね」と声は言った。お雪は全力で逃げ出す準備をしていた。
再び引っ掻く音ともに「開けてぇ」と声が言い終わらぬうちに、お雪は全力で母のもとに駆けて逃げ込んでいた。その音で母は目覚めたのか、上体を起こして指で目をこすりながら娘を見た。
お雪はとっくに泣き出していて、穴に潜るように母の白い寝巻に顔をうずめた。
「母上。助けて、母上。狐が来ました。妖狐が」
「え?何だって……?」と母は眠そうに言った。
母は立ち上がろうとしたがお雪はしがみついて離れなかった。母は玄関戸と娘を何度も見比べるように視線を行き来させた。
「ちょっと、そこにいな。お雪。私が対応するから」
母は起き上がった。手燭を探している様子だったが、やがて母は闇の中で立ち上がった。
だが母は、玄関戸の前に立つなり戸を開けようとしたのでお雪は叫んだ。
「やめて、やめて、やめて!開けないで!母上。お願い」
母親は娘の方を一度見て、改めて施錠をして布団の方に戻ってきた。
燭台の蝋燭に火がともされ、母子を中心に橙色の光が広がった。
「大丈夫だよ、狐はいないよ」と母は言ったが、娘が泣きやまないので困ったように息をついて「昨夜、余計な事を言っちまったかな。怖がらせたなら謝るよ」と言った。
しばらくしてお雪はようやく自分を落ち着かせる事ができて、そして母の帰宅前に妖狐が一度来た事を話した。母は驚いた様子で目を丸くして「ええ?」と言った。
「夕方に一度来たのかい。狐が?それで何、今さっきまた来たっての?」
「妖狐がまた来ました」
お雪は目を赤く腫らして答えた。母は怪訝な顔をして、考え込んでいる様子だった。
「そういう事もあるのかね。でも、もし次来たら私が出るから。お前は安心してお休み」
母は娘を抱き寄せて背中を軽くぽんぽんと叩いた。お雪は小さく頷き、そして灯かりは再び消された。その晩、お雪は母に密着するように体を擦り寄せて寝た。
その後、朝まで風以外の不気味な音はしなかった。
翌朝、雪は止んでいるようだった。母子は火を焚いて湯を沸かし、まず朝のお茶を飲んだ。その後、お雪は緊張しながら玄関戸を開けて外を覗いたが予想以上に静かだった。
積雪は多かったのでお雪はまず雪掻きをしようと思い、外に出て戸を閉めた。
その時に彼女を硬直させるものがあった――玄関戸の外側の板に線状の傷が大量にあり、さらに何か黒い染みのようなものがべったりと戸一面に広く、所々飛び散るように大量にぶちまけられていた。それは凍り付き、霜も付着していた。
お雪は思わず手を見た。妖狐との問答中に戸を開けた時に気付かずに手を傷つけられたかと思ったからだった。だが戸にこびりついた黒い物が血であるならあまりにも大量で、付着している場所から言ってもお雪のものではあり得なかった。
果たして一度目の妖狐の仕業か二度目の妖狐の仕業かは分からなかったが、母が気付かなかった事を考えると二度目の方だったのかもしれないとお雪は思った。
お雪は母を呼ぼうかとも思ったが、後で言おうと思い、木製の雪鍬を手に持ち雪掻きを始めた。その鍬状の用具は屋根の雪降ろしに母が使うものだったが、お雪は地での雪掻きにも使っていた。積雪は粉雪がふんわり積もった様子で凍っていなかったので、比較的簡単に家の周囲を片付け終える事ができた。屋根の雪は母に任せようと思った。
強い不安が残る中でお雪は少し気を取り直し、次は水を汲みに行こうと思って桶を手に持った。空には雲が多く残っていたが、所々に対照的な晴れ間もくっきり覗いていた。
井戸に向かうと誰かが雪掻きをある程度やったようで、道ができていた。
解体がほぼ終わって更地となった場所に下層の男性の一人が立っていた。お雪は彼がこの辺りの雪掻きをやったのだろうと思った。
「おはようございます」とお雪が言って頭を下げると、男性は「おい」と言った。
予期せぬ返答にお雪は素早く顔を上げた。
髭が濃く少しギョロっとした目付きの男性は、しかめ面でお雪に近寄ってきて「うちの女房とせがれを知らないか」と言った。
「存じ上げませぬが」とお雪は上目遣いで小さく言った。見ていないというのもあるが、彼の奥方がどの女性で息子がどの子供なのかもお雪は対応できていなかった。
「昨日の昼間、お前の所に女房が芋を貰いに行ったはずだ」と男性は言った。
それを聞いて、お雪は彼が強盗のうちの一人の亭主であると理解した。
「いらっしゃったかもしれませぬが……」とお雪はまた小さく言った。
昨夜、誰かが男性宅に来て彼の嫁と子供がなぜか外に出て行き、それっきり帰って来ていないのだという。彼は威圧的に語った。娘を上から見下し、腕を組み、嫁の強盗行為の事には一切触れなかった。困っているという感じではない。威圧的だった。後のお雪の記憶では彼は痩身で顔が細くて首の筋が目立ち横に広がった目の瞳は濁っていた。鼻筋は比較的細く鼻の穴は大きく見えて、それらの断片的な特徴だけが記憶として闇に浮かび上がる感じだった。
「お前、何も知らないはずはないな。夜中にうちに来たのはお前か?」
「……いえ。私はゆうべ、母と一緒にずっと自宅におりました」
「それは、お前が昨日うちに来てない証拠にはならないな」
男性の目には憎しみがこもっているようだった。少なくともお雪にはそう見えた。
お雪は困惑と不安と悔しさが錯綜し、息を少し荒げながらうつむいて口をつぐんだ。助けて欲しくて母を呼ぼうかと思った。
その時、別の男性の声がどこからか聞こえた。
「おいおいおい、いたよ」と声は言った。不思議とお雪を少し安堵させる声だった。
お雪と強盗の亭主は声の方に顔を向けると、少し離れた所に孤立した解体前の廃屋に下層の男性達が何人も集まっていた。彼らは何かを運び出していた。
「駄目だぁ。全部駄目だ!」と別の誰かが嘆くように言った。何かが「駄目」だと言いながら不思議と喜んでいるかのような声の調子にお雪には聞こえた。
強盗の亭主は腕組みをしたまま早歩きでそこに向かい、お雪もそこに行った。
そこで目に入ったのは裸であり、同時に死者であった。
裸に剥かれて凍った死者達だった。
それらが一体一体、運び出されていたのであった。壊れかけた廃屋の内から外へと。まるで傷口の膿を出すかのように。灰白色の肌の裸は互いに積み重なり、悲壮の山を形成しつつあった。驚くよりも前にそれらの一つ一つの事実がお雪の目に入った。事実が感情を凌駕した――とお雪はその時の事を言葉で表す。
がりがりに痩せて多くは腰が曲がったまま凍結した裸は、お雪と同じくらいかそれ以下の背丈の幼子達と、垂れた乳の女性達が大半だった。凍結して氷柱の如く先端が尖った乳房は母のものと形状が違って見えたが、同じ体の部位であるとお雪は理解した。何人かの裸にだけ、凍結した髭が顔にあった。
この時にお雪はどういうわけか、自分でも不気味な程に冷静に裸を観察していた。
平然としていたわけではない――断じてそうではない。娘は恐らく、目の前の事態を把握し切れていなかったに違いない。彼女自身の言葉を借用するなら観察が感受を凌駕していたという所であろうか。
裸は狐婆様のように涙を流してはいなかった。代わりに裸は共通して頭部か顔面のどこかに損傷があった。凍って皮膚や髪との見分けは困難だったが、顔の骨が一部露出した死者も確かにいた。しかし頭部の骨は割られていなかったとお雪は証言する。
強盗の亭主は終始不機嫌そうに顔を左右非対称に歪ませ、裸の山が積もるのを見ていた。
作業は終わったのか、男性達はぞろぞろと廃屋から出てきて裸の山の周りに集った。
「お前の所の女房はいたか」と一人が誰かに言った。
「知るか……多分いる」と相手は投げやりに言った。
お雪はここに集う者が自らも含めて誰一人として、悲しみの表情をしていない事に気付き、状況を一層不気味に感じた。男性達の表情が示すものは不快感か疲労感に見えた。
悲しみと絶望の表情を皮肉交じりに豊かに有していたのは、むしろ裸の死者達だった。
死者達は顔面を全て潰された者を除けば表情を持ち、目を激しく見開いた者、目を閉じて顔の中央に無数の皺を寄せた者、様々の者がいて、一人一人凍り付いた苦悶の表情が異なり、各々の死の姿を伝えた。髭を持つ死者の顔は不思議と安らかであるようにお雪には見えた。
男性の一人が面倒そうな表情でもじゃもじゃの頭と髭を搔いた。彼は汗まみれだった。しかし汗の臭いはこの時にお雪は鼻に感じ取らなかった。
「結局、状況はどの家も同じなのか」と強盗の亭主は言った。
「同じなんじゃないのか、多分」ともじゃもじゃの男性は応じた。
そして、強盗の亭主がお雪に目を向けたのを機に、髭面の下層の男達は代わる代わる自分達の顔を見合わせたりお雪の顔を覗き込んだりしていた――異物を見るような凝視の目もあったので、思わずお雪はやめてくださいと口に出しそうになった。
「お前がやったわけじゃないよな」ともじゃもじゃの男性はお雪を見て言った。
「何の事でございますか?」とお雪は図らずも強い口調で答えた。自分でも驚いた。
男性達は少し驚いたようにしばらくお雪を見つめた。
お雪は少しうつむいた。
いかつい顔付きの男性が一歩前に踏み出た。お雪は顔を上げ、表情は怯ませなかったが警戒心を強めて逆に一歩下がった。その男性は苛立ちを隠そうとしなかった。
「すっとぼけるな!女達が昨日、お前の家に行っただろう」
お雪は、この場にいる男性全員が強盗の亭主か縁者である気がしてきた。
「何もとぼけていないです」とお雪は相手を見据えてはっきりと言った。相手は怯まなかったが、表情筋の伸縮の限りを尽くして明らかな不快感を顔の全面に出していた。
「お前が母親に告げ口をして、一緒にやったのと違うか?」と強盗の亭主は言った。
言われて、お雪は不快さを感じた。相手が母にまで濡れ衣を被せようとし始め、また嫁の強盗行為を知っていた事も言葉から強く示唆されたので、むきになってでも反論したくなり、彼女は声を大きくした。
「いいえ!そんなの、事実と違います。私と母上は……」
「うるせえ!黙りやがれ――」
巨大な声が響いた。
そのやたらと低い声の持ち主が月衛門だと分かるのにお雪は時間を要した――一体いつからいたのか、頭領と血族の者達が再び場を囲んでいた。
それと対照的に、下層の男達は娘とは比べ物にならない反応の速さでとっくに死者の山から離れ、引き下がっていた――強盗の亭主も、もじゃもじゃ毛の人もいかつい顔の人も、揃って列を作るように。一斉に、そして一様に引き下がって、下を向き、口を結び、押し黙った。
お雪はそれを見て狡い人々の心理を読み取った気もしたが、自分自身も同じ立場にあると直ちに理解し、彼らと同じように下を向いて黙った。先程発した大声は頭領の耳にも確実に入っただろう――お雪は迂闊だったと思って大変恥じて、そして深く悔いた。
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