第九章:赤狐門⑨【雪降る白狐塚の谷】

 翌朝、穴の外を見ると綺麗に晴れていた。雲一つ無い。
 雪彦はこの穴に妖刀を安置しておく事を提案し、お雪は同意した。その事について、蒼次朗は特に反論しなかった。
 三人は出発した。
 お雪はふと、もう一度少年の姿の雪彦に会いたくなった。それを言った時、雪彦はその姿になっていた。純白の着物姿のお雪は嬉しくて抱きついた。道を歩く時にはお雪は雪彦から離れなかった。雪彦はいつも優しい表情だった。
 進む道は険しい場所もあったが、そんな時は雪彦が抱っこしてくれた。お雪は、彼に堂々と甘えた。お雪は首飾りを常に首に掛け、母のものは雪彦に預けた。お雪の思った通り、それは彼から母に贈られたものだった。雪彦は優しい目をしながら語ってくれた。
 ある晴れた日、褐色の岩が増えてきた道で雪彦は澄み渡った空を見上げた。あと数日程で着くだろうと彼は語った。向かう先は妖狐の国で、狐達が暮らしているという。
 お雪の期待は高まった。
――何だか、雪彦達と一緒にそこに行けば母上と再会できる気がする。
 彼女は自分の着物の白い袖を見て、頑張ろうと思った。
 周囲の積雪は大分少なくなっていた。谷から離れている事を彼女は実感した。
 ある所でお雪達は少し休憩をする事にした。
 雪彦は、近くの川から水を汲んでくると言って出かけて行った。
 お雪は岩の上に蒼次朗と共に腰掛け、雪彦を待った。蒼次朗は人型の姿をお雪に見せる事は二度と無く、終始四足の狐の姿を保った。
 岩だらけの道には温かい陽光が差していた。
「この辺は赤狐門という道で、白狐塚の谷と朱の妖狐の土地を結ぶ通路なのだ」
 蒼次朗はそう言った。赤狐門――確かに地面や岩壁の色は赤褐色にも見えた。
「人の世と妖狐の世の境目でもある。ここを抜けると狐の世界に至る」
 お雪はこれまで彼らと触れ合ってきたので、慣れていた。それにお雪と雪彦が親子であるとすれば、言うなればお雪は半分狐である――そうであれば、拒む事は何も無い。
――自分は狐なのだ。そしてもしかすると、母上もまたそうだったのかも……お雪は思った。
 雪彦は器に水を汲んで笑顔で戻ってきた。お雪は澄んだ水を飲んだ。美味しかった。
 休憩を終えて、お雪達は赤狐門の道をまた元気に進み始めた。一つの家族のように。
 お雪がその後どうなったのかは、誰も知らない。

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