「同じ穴のむじな」のムジナとは?狸やアライグマとの違い

同じ穴のむじな」ということわざがあります。これはやや批判的な意味を込めて「一見違うようでも同類である事」という意味ですが、そもそもムジナとは何でしょうか。実はある動物の事なのですが、一体どういう動物なのでしょうか。

  1. ムジナ(アナグマ)の特徴
  2. 言葉における「むじな(アナグマ)」と「狸」
  3. 「アナグマ」の仲間達:生息地域と生物学的分類
  4. 狸とはどういう動物か?

ムジナ(アナグマ)の特徴

ムジナという動物

ムジナとは一応日本語であり、漢字で書くと見慣れない字ですが「狢」あるいは「貉」と書きます。別称として、ややマイナーですが「ササグマ(笹熊)」「マミ(猯)」「アナホリ」「モジナ」などと呼ばれる事もあります。

猯(「まみ」)という名称に関しては同音で魔物の類の意味の「魔魅」という語が『太平記』などに見られるようですが、ムジナを指す「猯」との意味的な関連があるのかは定かではありません。

生物学的にはムジナとは、日本語でアナグマ(穴熊)と呼ばれる動物です。つまりムジナとはアナグマの事になります。(後述しますが実は「狸」とは生物学的には異なる哺乳類なのです。)

外見的な特徴

ムジナことアナグマは日本だけでなく世界に仲間がいますが、例えばヨーロッパのものは次のような外見をしています。

pixabay.com より ユーラシアアナグマ(ヨーロッパアナグマ)

※この記事で参考のために使われている pixabay.com の画像等はpixabay.com の利用規約により使用許可を得ています。

アナグマの大きさは種類によって差がありますが体長は50cmから100cmほどで、体重は小さいもので約5kg、大きいもので12~13kgほどと言われるので犬に近い大きさと言えそうです。(柴犬などの中型犬の体重が大体10~12kg。)アナグマの体高はおおよそ人の大人の膝よりも低い事が多く、胴長で足が比較的短い体型です。

ヨーロッパアナグマは顔の部分が白い毛に目から耳にかけての部分だけ黒いのが特徴的ですが、日本に住むニホンアナグマは目の周りだけが黒くて頭部も含めて全体的に茶色の毛である事が多いようです。しかし個体差があって、日本アナグマでも目の周りの黒い部分がヨーロッパアナグマに似るものもいる。

アメリカ大陸のアナグマは顔つきがまだ異っており、鼻先全体が黒いものがいます。アフリカに住むミツアナグマ(honey badger)は体の上半分が白っぽく下半分が黒い外見でありスカンクに似た見た目をしています(※)。また、東南アジア等に住むブタバナアナグマは鼻先が長く、イタチアナグマは体重2kgほどの小型の動物です。

(※後述するように、アメリカアナグマやアフリカ等のミツアナグマは、最近ではアジアやヨーロッパのアナグマの近縁の別系統であるとする説もあります。東南アジアに住むスカンクアナグマは習性的にもスカンクに似ていて、これは現在アナグマとは別扱いでスカンク科の動物としています。)

日本には野生のニホンアナグマが生息しています。動物園で飼育されている事もあります。

ムジナ(=アナグマ)が属する系統【タヌキとの区別】

さてムジナを見て「これはタヌキではないのですか?」と思う人もいるかもしれません。ムジナことアナグマは、狸とは違うのでしょうか。それとも生物学的には同じ生き物なのでしょうか。

アナグマと狸は生物学的には異なる動物になります。

しかし両者は一体何が違うのでしょうか。どちらも似た動物ではあるのですが、詳しく調べるとアナグマはイタチ科に属していて、狸はイヌ科の動物であると言われています。(アナグマは漢字で「穴熊」と書きますが熊の仲間でも無いわけです。)

ところで狐はもちろんイヌ科の動物ですから分類上は科のレベルでは狸と同じという事になり、狸と狐は意外にも生物学的には比較的近縁の種であるとも言えそうです。

生物学での見解によれば、タヌキはイヌ科なのでムジナやアライグマと比較するとむしろキツネのほうが近い親戚関係にある。

アナグマが属しているイタチ科の動物にはカワウソやラッコ、ウルヴァリン、テン、ミンクなどが含まれます。昔はスカンクもイタチ科に含めて考えられていましたが、現在では独立したスカンク科が提唱されています。

また、後述するようにアナグマと狸は生息する地域にも違いがあります。習性は似ている所もありますが微妙に違う部分も存在します。

日本にはハクビシンという動物もいますが、それはまたムジナともタヌキとも異なる動物です。しかし見た目が似ているので混同しやすいようです。ハクビシンはジャコウネコ科というグループに分類されています。

アナグマの習性:本当に「穴」に住む

「同じ穴のむじな」と言いますが、ムジナことアナグマの前足には鋭い爪があって穴掘りが得意で森や林の中で少し深めの複雑な構造の巣穴を作ると言われています。

人家の近くに巣穴を作ってしまい、獣害的な問題になってしまう事もあるのだとか。アナグマによる獣害としては農作物を食べて荒らすとか、人家に侵入するといった事があるようです。穴を掘って下からやってくるので対処が難しい事もあるとか。

日本国内で国土交通省と民間企業のチームが九州で行った1つの調査研究によると、ある河川敷の堤防には集中して10個ほどのアナグマの巣が見つかったとの事。重機で斜面を掘って内部構造を直接調べたとの事です。その調査によると、巣穴はおおよそ1メートルから5メートルの長さであり、直線状のもの、途中で折れ曲がっているもの、横に分岐が見られるものがあったとの事です。

国土交通省九州地方整備局等による調査結果をもとに作成したアナグマの穴の構造の推測図。

■参考外部サイト:
アナグマの被害に対する河川堤防の保全策(Nature of Kagoshima)

同じ穴に実際に複数のアナグマが暮らしている事もあり、さらには使われなくなった巣穴を代わりに狐や狸が利用する事もあると言われます。

同じ穴にアナグマと狸が同居している事もあると言われ、そこから「同じ穴のむじな=一見異なるようだが似たようなもの」ということわざが使われるようになったのではないかと見る説もあります。

穴掘りが得意な反面、木登りなどは上手ではなく、走る事も犬などと比べると得意ではないようです。アナグマは一般的に視力が悪く夜行性ですがヨーロッパのアナグマは昼間でも活動する事があり、嗅覚に優れていて歯や顎が強力である種が多いとされます。

言葉における「むじな(アナグマ)」と「狸」

昔から混同されてきた「ムジナ」と「狸」

アナグマ(=ムジナ)と狸の違いは紛らわしいものですが、実の所、言葉としてはムジナという語がタヌキを指している事もあるようなのです。

岩波書店の広辞苑によるとそれは「混同」によるものだと言います。つまり、本当はタヌキではないのだけれども間違えてタヌキを指してムジナと呼んでしまい、それが半ば日本語の語句の意味として定着してしまっている部分もあるという事でしょう。

混同して、タヌキをムジナと呼ぶこともある。

岩波書店『広辞苑』より

ですから古い文献にムジナという言葉が出てきた時には基本的にはアナグマを指すが、時には狸を指している事もあり得るわけです。

昔話として有名な『かちかち山』ではキャラクターとして「狸」が登場しますが、口承による伝承だとそれをムジナと呼んでいる事もあるようです。昔話の中で元々想定されていたものが本来のムジナ(=アナグマ)だったのか、単なる呼び間違いなのかは定かではありません。

同じ昔話の『文福茶釜』で茶釜に化けていたのは「狸」であるとされます。

言葉としてムジナの別称である「マミ」にも同じ混同があるらしく、基本的にはムジナを指すのであるが狸を指している事もあると言われています。

少し興味深いのは、地名に「狸」という文字が入っていて「むじな」と読むものが日本には一部存在する事です。例えば福島県須賀川市にある「狸森」という地名は「むじなもり」と読まないといけないらしく、他方で同じ福島県のいわき市にある「狸作」という地名は「たぬきさく」と呼ぶことになっています。同じ現象は宮城県の一部などでも見られて、「狸」と書いて「まみ」と読む例もあるようです。狸とムジナの混同が過去にあったのか、それとも敢えて統一的に狸という漢字をあてたのかなどの理由は不明です。

狸汁は「狸の肉」を本当に使っている?

昔の話に出てくることがある「狸汁」というのは元々は文字通り狸の肉を煮込んだ汁を指すと考えられていますが、ムジナことアナグマの肉を使って同じ名前で呼んでいたのではないかとも言われます。文献の記述だけだと「狸汁」に対して実際に何の肉を使っていたのかについては混乱があると言えるでしょう。

一説にはムジナは美味だが狸はまずくて食えないなどとも言われるようですが、その真偽は定かではありません。

ところで肉を使わずにコンニャクなどを入れたものを「狸汁」と呼ぶ事も多いのです。いわゆる精進料理として知られており、狸の肉を使う代わりにコンニャクを入れるようになったという説があります。コンニャクを野菜と一緒にごま油で炒め、味噌汁に入れて煮るなどすると言われます。

尚、カップラーメンでも知られる「狸うどん」や「狸そば」はもちろん狸の肉は使っておらず、天かすやねぎ(関西などでは刻んだ油揚げの事も)を入れたそばやうどんを指します。

ヨーロッパの言葉におけるアナグマ

英語だとアナグマの事は badger 【バジャー】と言い、狸の事は少し聞き慣れない語かもしれませんが raccoon dog 【ラクーン・ドッグ】と言うようです。ちなみに raccoon とはアライグマの事で、生物学的にはイヌ科でもイタチ科でもなくアライグマ科に分類されています。

犬でダックスフントという犬種がいますが、ダックスとはドイツ語でアナグマの事を指すとされていて、フントとはドイツ語で犬の事です(hound「ハウンド」と同じ系統の語)。

ダックスフントは元々アナグマ(=むじな)の狩猟をするのに使われた犬であると言われています。ただし、ペットとして人気のあるミニチュアダックスフントと比較すると元々の狩猟犬としてのダックスフントはもう少し大きい犬です。また、現在はヨーロッパの国々ではアナグマの狩猟は禁止されている事も多いそうです。

「アナグマ」の仲間達:生息地域と生物学的分類

ところで、アナグマは言葉のうえでも混乱がありますが生物学的な分類でも大きな混乱があります。日本の一般民衆はアナグマについて言葉の面で混同をしてきましたが、生物学者もまた、世界のアナグマの分類で大きな混同をしてきたというわけです。

狸とアナグマの違いについては、生物学では旧来からイヌ科とイタチ科の分類で区別されてきました。しかし最近ではアナグマの中で見るとアメリカ大陸に住むアナグマや、アフリカ・アラビア・インドに住むミツアナグマ(ハニーアナグマ)は亜科(subfamily)のレベルで区別すべきであると言われるようになってきています。(※アメリカアナグマやミツアナグマには亜科を考えず、アナグマ亜科とは独立してイタチ科アメリカアナグマ属のように考える事もある。)

さらに、東南アジアに住むスカンクアナグマに至っては科(family)のレベルでスカンク科として考える説が提唱されています。ただし、同じく東南アジアにも住むイタチアナグマなどは亜科のレベルまでニホンアナグマ等と同じであり、属(genus)のレベルで系統的に分かれるとされています。

アメリカ大陸のアメリカアナグマやアフリカ・アラビアのミツアナグマ(ラーテル、ハニーアナグマ)はアナグマ亜科と区別する説も提唱されている。 東アジアにいるものはヨーロッパアナグマの亜種と考えられたが最近では分けて考える説もある。東南アジアに住むスカンクアナグマ属は現在ではスカンク科に分類される事もある。アナグマは日本列島にもいるが北海道にはいないとされる。

生物学的にはイタチ科の中に「アナグマ亜科(subfamily)」「アメリカアナグマ亜科」「ラーテル亜科」があると考えます。
(※あるいは、アナグマ亜科と、それとは独立したアメリカアナグマ属、ラーテル属があると考える。ラーテルとはミツアナグマの事で、アフリカの1つの言語での名前がラーテルらしい。)

次に、アナグマ亜科の中に「アナグマ属」と「ブタバナアナグマ(hog badger)属」「イタチアナグマ(ferret badger)属」の3つがあると考えます。
さらに、「アナグマ属」の中にユーラシアアナグマ・アメリカアナグマ・ニホンアナグマなどの「種」が分かれていると考えます。

日本語でムジナあるいはアナグマ、英語では badger と汎用的に呼んでいる動物は生物学的には「アナグマ属」に属する3種を指していると言ってよいかもしれません。

アナグマ亜科アナグマ属に3種がいる分類は次のようになります。

  • ヨーロッパアナグマ(ユーラシアアナグマ):ヨーロッパに分布
  • アジアアナグマ:中央アジア~東アジア
  • ニホンアナグマ:日本の本州・四国・九州(北海道にはいない)

旧来の分類だと、ヨーロッパアナグマ属に1種と3亜種がいて、日本アナグマはその亜種の1つという位置づけになります。

新しい分類のもとでの「アナグマ」に関する分類をまとめて整理すると次のようになります。イタチ科等には非常に多くの動物種がいますがアナグマに関連するもの以外は省略してあります。

科(family)亜科(subfamily)属(genus)種(species)
イタチ科アナグマ亜科アナグマ属3種 ヨーロッパアナグマ/アジアアナグマ/ニホンアナグマ
ブタバナアナグマ(hog badger)属3種 中国南部・東南アジア等
イタチアナグマ(ferret badger)属6種 インド・中国・台湾・東南アジア等
(アメリカアナグマ亜科)アメリカアナグマ
(American badger)属
1種 アメリカアナグマ
メキシコ~北アメリカ
(ラーテル亜科)ラーテル
(honey badger)属
1種 ミツアナグマ(ラーテル)
アフリカ・アラビア・インド
スカンク科(亜科は考えない)スカンクアナグマ(stink badger)属2種 ジャワスカンクアナグマ(teledu, Malayan/Sunda stink badger)
パラワスカンクアナグマ(Palawan stink badger)
フィリピン・インドネシアの一部など

狸とはどういう動物か?

外観的な特徴

そもそも、狐と比べて狸を見たことがある人が意外と少ないのではないでしょうか。狸は、イラストとして描かれるキャラクターとしては昔話の絵本を筆頭によく見かけるものです。しかし実際には狸がどのような動物なのかは、狐と比較しても画像や映像であっても見る機会は意外に少ないかもしれません。

ちなみに狸の見た目は次のようになります。

pixabay.com より 狸/raccoon dog おそらく外来種としてヨーロッパに生息するもの。

顔立ちがムジナ(=アナグマ)とは少し違うようです。また、アナグマのほうがタヌキよりも脚や尾が太く、全体的にずんぐりした体型であるとも良く言われます。体重は 7~8kg ほどと言われます。日本の本州に住むホンドギツネが4~6kgと言われるので、狐と似たサイズか少しだけ大きいという事になります。

狸も穴に住みますが、前足の爪はアナグマほどには発達していないようです。

狸はイラストのイメージでは「頭に木の葉を置いて化ける」というものが時々使われますが、個体によっては確かに頭の毛の色合いから枯れた木の葉を頭に置いているように見えなくもない場合もあるかもしれません。

狸の習性

狸は冬には冬眠を行います。巣穴に住み、前述のようにアナグマが使わなくなった巣穴を利用したり巣穴をアナグマと共同で使う事もあると言われます。また、雑食性で果物や小動物を食べる事も狸とアナグマで大体似ています。

他方で、少し耳慣れないかもしれませんが狸は「木に登る」事があるという報告もあるようです。

狸が属するイヌ科の動物の多くは猫と違って木登りは不得意そうですが、実は狐は木登りが得意な種類もいる事が知られています。ですので意外にも狸と狐はイヌ科の動物の中では木登りが得意な事もあるという共通点があるわけです。

狸はアジアとヨーロッパに生息していますが、ヨーロッパに住むものはアジアから持ち込まれたものが広がったのではないかという見方が強いとされます。アナグマが、狭義のアナグマ属に限定してもヨーローッパからアジアに広く分布するのに対して、狸はどっちかというと東アジアを中心として分布する動物と言えそうです。また、日本に住むものに関しては本州・九州・四国・北海道に生息すると言われています。(日本アナグマは北海道にはいない。また沖縄にはアナグマ・狸・狐とも野生種は確認されていないとされています。)

狸は北海道にも生息するとされていて、ニホンアナグマは北海道にはいないとされている。

raccoon dog と racoon ― 狸とアライグマの違いは?

ちなみに raccoon dog と呼ばれる狸に対して、参考までに raccoon の本家であるアライグマは次のようになります。

pixabay.com アライグマ/raccoon(利用規約により使用許可を得ています。)

こうしてみると今度はタヌキとアライグマがすごく似ていてどこがどう違うのかという話にもなるかもしれませんが、アライグマは尻尾の縞模様が特徴的であるとされています。

アライグマは北海道や沖縄を含む日本列島の全域で生息が確認された事があり、現在でも多くの都道府県で野生化していると見られていますがこれは1960年代以降に急速に起こった事だと言われています。アライグマは狸と違って元々日本にはいない動物でアメリカ大陸にのみ生息していました。それが、飼育用などに輸入したものが脱走して大繁殖したというのです。

つまり、狸とアライグマは顔は似ていますが従来は全然異なる場所でずっと生息していた動物という事になります。(そして生物学的にも少し離れた系統であるわけです。)

アライグマは穴にも住みますが木登りが得意なので、その点は狸と共通しています。体格的にはアライグマは通常は 5~8kgほどでこれは狸と同じくらい、しかし時に体重15kgほどにもなる事があるとされてこれはアナグマ以上の大きさになります。

アライグマの居住地は元々南北アメリカ大陸で、日本やヨーロッパに生息するものは外来種であるとされる。